旧3大学の伝統を引き継ぎ、さらに発展させる新しい総合大学。
兵庫県立大学は神戸商科大学、姫路工業大学、兵庫県立看護大学の統合によって、平成16年4月に開学しました。高い研究実績や勝れた人材育成を誇る旧県立3大学の伝統を継承・発展する総合大学として、特に「異分野間の融合」を重視した研究と教育に取り組んでいきたいと考えています。本学は「教育」、「研究」とともに「社会貢献」という理念を3つの柱として掲げています。校旗にある学章はその3本柱をシンボライズしたもので、私もデザインに加わりました(文中写真参照)。これからの社会の進展を支えていくには、異分野間の融合・連携が不可欠です。例えば、先端科学技術の研究・開発でも、技術系の立場や考え方だけでは、人間や自然や社会との親和性を十分に達成することはできません。技術系の人間も、人文・社会科学などの分野の専門家と協働しなければ、解決できない問題が多々あるのです。例えば、ヒューマン・エラーやヒューマン・ファクターの問題を完全になくすのは難しいですが、限りなく安全性を高めていくためにも技術者と心理学者など人文・社会科学系の人達との連携・融合が必要です。また、技術系の人間がベンチャー・ビジネスを興そうとしても商法や会計学の基礎知識などがないと創業できません。アメリカでよく言われることですが、シングルメジャーのみでは力が十分に発揮できない時代です。本学でも今後、副専攻を制度化するなどして、文理融合の視点を重視した、新しい時代の進展に対応し得る教育・研究を推進したいと考えています。

旧3大学を母体に、新しく大学院応用情報科学研究科などを加えて創設された本学は、6つの学部と8つの大学院研究科、4つの附置研究所や各種の附属センターなどで組織されています。いずれもきわめてユニークな特性をもっています。例えば、平成16年12月に開所した「地域ケア開発研究所」では災害看護学の実践的な研究・教育や地域の看護・介護のケアシステムの創造・開発など、全国でも類例を見ない独自の研究と人材の育成が行われます。これはロボット・テクノロジーやエレクトロニクス技術、人間工学や心理学、医学や生命科学などが一体にならないと進展しませんので、自ずから異分野間の融合が必要になります。
高い志と大きな夢をもって発足した新しい総合大学ではありますが、母体となった旧3大学の歴史と伝統については、生かすべきものは生かしていきたいと考えています。キャンパスも旧3大学それぞれの持ち味を生かすために、県の全域に広がる既存の場所を活用しています。6つに分かれたキャンパスには、おそらく日本でも最先端の情報通信ネットワークを駆使した遠隔授業システムが導入されており、どのキャンパスからも希望する講義が受けられるようになっています。もちろん質疑応答も可能です。今後、これをさらに整備・拡充して、海外の大学との交流なども一層積極的に進め、単位互換などもできるようにしたいと思っています。
法人化された国立大学の状況を見守り、よい部分はどんどん取り入れていく。
ご承知のように、平成16年度から国立大学は政府の方針によってすべて法人化されました。我々兵庫県の場合には、時流に迎合して機械的に法人化することが果して大学や社会にとって最も適当かどうかということを慎重に検討する必要があるという考え方で大学サイドと知事サイドが完全に一致しています。法人化によって新たに発生する問題点などをよく見極めるとともに、メリットやよい効果が期待できそうなものはどんどん取り入れていきます。国立大学の法人化については、いろんな人が懸念される問題点を指摘しています。例えば、中期計画の達成度の評価結果が直ちに研究費に反映されるような方式では高い目標を設定するほど達成度が低くなり、意欲的な研究やチャレンジングな研究が影を潜めていく危険性が出てきます。達成可能かどうかわからないような新規性の高い研究テーマに積極的に取り組むのが大学の非常に重要な使命です。企業では研究の成否や研究に要する期間などが全くわからないような研究は原則として許されません。だから、大学にはそのような基礎的・冒険的な研究を担う責務があるのです。また、できるだけ外部資金を取ってこいということになると、研究費稼ぎのためにアルバイト的に企業の仕事を請け負うような好ましくない形の産学連携が進む恐れもあります。いずれにしても、しばらく様子を見ないとわかりませんので、本学としては、国立大学法人化の今後の推移をよく見極めながら、理想的なあり方を検討していこうという姿勢をとっています。
国立大学は法人化に伴う法律によって、すべての大学で「経営協議会」を作ることになっていますが、本学では学外の有識者約10名を加えた「運営協議会」を自主的に設け、すでに会合も開いています。協議会のメンバーには、芝浦工業大学長でノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈さん、看護大学をご指導いただいてきた聖路加国際病院理事長で聖路加看護大学名誉学長の日野原重明さん、東亜大学学長で劇作家の山崎正和さん、富士ゼロックス(株)会長で元経済同友会代表幹事の小林陽太郎さん、松下電器産業(株)会長で日本経済団体連合会評議員会議長の森下洋一さんといった方々にご就任いただき、中期計画案などについて大所、高所からの率直なご意見をお願いしています。「運営協議会」での議論などをふまえた中期計画案は県民の皆さんにも公開してパブリックコメントを求め、県民の皆さんからのご意見なども反映した中期計画も策定しました。
国立でも公立でも私立でも、大学の基本的なあるべき姿にそう大きな違いがあるとは思いませんが、しかし、個々の大学の性格や持ち味などには違いはあります。例えば、公立大学は地域の税金で設置され、運営されている大学です。この点は国立大学や私立大学とは違います。地域の税金を使うわけですから、公立大学の教職員は地元に対する地域帰属意識を強くもたなければなりません。そして、研究成果を積極的に地元に還元していく責務を負っています。本学も、常に社会に開かれた大学をめざして、県民の生涯学習ニーズに応えるための「生涯学習交流センター」や、大学と産業界とのバリアフリーをめざす「産学連携センター」などを設置し、さまざまな事業を展開しているところです。高いレベルの研究と、それに基づく優れた人材の育成、および有効な社会貢献。公立大学である本学は、この3つを柱として、高い評価をいただけるような大学になりたいと思っています。地元と共生し、県民から愛され、親しまれる大学でありたいものです。

基本は最先端の教育・研究。そこからよい循環が生まれるはず。
本学のように3つ以上の4年制大学を統合して創設された新大学は、全国でも初めてのケースです。統合の意義をより積極的なものとするために、新しいブランド・イメージを発信していきたいという気持ちは設立準備の段階からありました。実際、知名度の点では本学はまだまだ低いはずです。高い志と大きな夢をもって着実な歩みを始めた本学の姿を受験生や社会の皆様方にどのように伝えていくかということは当面の大きな課題です。大学間の競争が高まる中で、本学が選ばれる存在になるためには、結局最高レベルの教育・研究を推進していくことがすべての基本になると思っています。
一般に評価というのは大変難しいものですが、中でも大学の評価というのは実に難しいものです。企業なら短期間で高い評価を得ることもあり得ますが、大学の場合、例えばいつ、どこで、何の役に立つのか当面は全くわからないような基礎研究に対して適切・妥当な評価を行うのは容易ではありません。特に教育に対する真の評価は卒業生が社会で活躍するようになってからでなければできませんので、どうしても長い時間が必要です。世界の一流大学を見てみますと、いずれも優れた教育・研究が行われ、高い授業料を払ってもその大学に勉学意欲の高い学生が国内外から大勢集まり、優れた卒業生が輩出して大学の評価が一層高まるとともに、成功した卒業生達からの寄付なども増えて、その資金で世界中から著名な教授を集めることなどもできるようになり、その結果、さらに教育・研究環境の整備・高度化も進み、少々学費が高くてもますます大勢の優秀な学生が集まってくるという好循環が生まれています。本学も、総合大学の特性を生かしながら、最先端の教育・研究を行うことを基本として、よい循環の確立をめざしていくという、大学としての王道を歩んでいきたいと思います。学生にとって「意義があったと満足できる学生生活」の実現と、「真に社会に役立つ大学と評価されるような社会貢献」の推進。そのために全教職員が力を尽くしていくことが、大学本来の使命である社会や、国家や、ひいては世界・人類への貢献に結びつき、真に「大学」と呼ばれるにふさわしい評価を得る結果につながっていくはずだと思っています。
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