RECRUIT Learning Information Services Div.Co.   2008年6月18日更新  
  激変する教育業界の経営戦略「志願者減少時代の次の一手」  
  ■ CHAPTER  004   東京電機大学 学長 古田勝久 氏  
 
             
    profileimages   社会の変化に柔軟に対応できる、
人間性豊かなエンジニアの育成に力を注いでいます

古田勝久 氏

1940年生まれ。1967年、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。同大制御工学科助手、カナダラバル大学ポストドクトラルフェローを経て、1970年、東京工業大学制御工学科助教授。1982年、同教授。1994年、同大学院情報理工学研究科教授。1999年、同工学部工学部制御システム工学科教授。2000年、東京電機大学情報システム工学科教授。2008年6月から現職。専門はインテリジェントコントロール、ロボット制御、計算機制御、可変構造制御等、制御システム。カリフォルニア大学バークレー校で招聘スプリンガー講座教授に招かれる、ヘルシンキ工科大学から名誉博士号を授与されるなど、国際的にも知名度が高い。独立行政法人科学技術振興機構・対人地雷探知除去研究事務所で研究総括を務めるなど、学識と科学技術を活かした国際貢献も実践している。

   
             
     
 

「技術は人なり」
日本の競争力の源泉をきちんと伝承する

photo  東京電機大学は昨年創立100周年を迎えました。20世紀初頭からのこの100年は、人類にとって未曾有の大きな変化の時代でした。科学技術の急速な発展が、産業や社会、人間の暮らしをまさに激変させたといえます。東京電機大学は、現代の社会や産業の発展の基盤であり、戦後日本の発展を支えてきた科学技術、とくに日本の競争力の源泉であるモノづくりの伝統を受け継ぎ、社会に貢献できる技術者の育成を続けてきました。
 東京電機大学の初代学長である丹羽保次郎博士は、写真電送装置(FAX)の発明者であり、特許庁が選出した日本の十大発明家の一人に数えられています。優れた教育者でもあった彼は、『若き技術者に贈る』という著書で将来、技術者になろうという若者にアドバイスを贈っています。そのなかの「技術は人なり」という言葉は、本学の教育・研究の理念として現在もなお継承されており、東京電機大学のDNAとして、また個性として力強く息づいています。
 「技術は人なり」というのは、とても意味深い言葉だと私は思います。現代社会はあらゆる面で便利になり、快適にもなっています。その反面、地球環境、資源エネルギー、食糧・人口問題や地域格差、自然災害や地雷除去などさまざまな課題を抱えていることは、ご存知の通りです。「人の生命は地球より重い」という言葉がありますが、私たちがこの言葉に素直にうなづけるのは、生産性が飛躍的に向上したためです。産業革命以前、世界中で7〜8歳の子どもたちが長時間労働に従事していたと言われています。作家の曽野綾子さんは「電気のないところに民主主義はない」という意味の言葉を述べておられますが、まさにその通り、科学技術と人間の尊厳は不可分であると思います。将来、技術者として活躍し、社会に貢献していくためには、高い専門性に加えて、豊かな人間性が期待されるのです。
 東京電機大学では、カリキュラムの充実を図ると同時に、大学での教育・研究指導にあたる教員の充実にも力を入れています。様々な大学や研究機関の研究者、企業の生産技術開発の第一線で活躍してきた技術者、さらには医師など関連領域の研究者等々、さまざまなバックグラウンドをもつ優れた人材が教育・研究を担当しています。バラエティに富んだ質の高い教員は、東京電機大学の伝統であり、強みの一つであると自負しています。

加速化する技術発展を支えるのは、
揺るぎなき基礎力と社会への対応力である

 この100年間に科学技術は急速に発展したと言いましたが、その発展の速度は時代とともに高速化するばかりです。一つのブレークスルーが次のブレークスルーを生み出す、技術の玉突き現象がそこそこで起こっています。こうした急激な変化とますます加速する技術の進化に対応していくためには、大学における教育もまた、しっかりとした基礎力を養うと同時に現代の産業や企業が必要とする技術領域にも目を向けていく必要があると思います。東京電機大学では大学の教育そのものを真摯に捉え、2007年4月に大きな改革を行いました。人間の生活空間をデザインする「未来科学部」を創設し、人間に役立つものづくりができる人材の育成をめざす「工学部」、人と社会を技術でつなぎ、新たな技術社会を支える人材の育成をめざす「理工学部」、地球を視野に活躍できる情報関連技術者を育成する「情報環境学部」、一人ひとりのライフスタイルを大切にした新しい学びのスタイルを実現する「工学部第二部」の五学部制とし、時代が求める「知財を創造できる技術者」を育成する体制を確立しました。
 さらに理工学部では、「高校生にわかりやすい学系名称」「入口と出口(入試と就職)を意識したコースのくくり」「学生数と教員数のバランスを考慮した学系」を視野に入れた学系の再編を2009年4月から実施します。具体的には、数学・物理学・化学・数理情報学の4つのコースからなる「理学系」、生命科学・生物環境の2コースからなる「生命理工学系」、コンピュータソフトウェア・ネットワークシステム・アミューズメントデザイン・社会コミュニケーション・コンピュータサイエンスの5コースからなる「情報システムデザイン学系」、知能機械・電子機械・電子システムの3コースからなる「電子・機械工学系」、建築・都市環境の2コースからなる「建築・都市環境学系」とします。
 また最近は社会からの修士課程修了者のニーズも高くなっていきます。新しい学部にあわせた大学院修士課程も平成21年4月からスタートする計画です。

機会と場さえ与えれば、
時代が求める素晴らしいエンジニアへと成長する

photo  一見なんでもないことのようですが、「高校生にわかりやすい」ということは非常に重要であると、私たち東京電機大学では考えています。これはなにも本学を志望する学生を増やしたいということではありません。いま日本全国でエンジニアリングやサイエンスに興味をもつ高校生が減少しており、このままで推移すれば、社会の発展や21世紀の産業界を担う人材が不足しかねないという危機感を抱いているためです。例えば、高校生に「エンジニアといえば誰を思い浮かべるか」という質問をしたとします。そこでエジソンの名前はあがっても、いま活躍している技術者の名前は出てこないという話を聞きました。若者がエンジニアに憧れなくなっているという現象は、日本だけのことではありません。アメリカでも、憧れの職業は医師や弁護士であり、技術者をイメージできない若者が増えているのです。アメリカでは、アメリカ国立科学財団(National Science Foundation)という連邦機関が高校生にエンジニアリングやサイエンスに興味をもってもらうためのさまざまな調査や研究、教師の博士号取得を支援するプログラムなど、さまざまな活動も行なっています。高校生のエンジニアリングやサイエンスに対する関心を高めるために努力し、できることを確実に実行していくことは、理工系大学に課せられた責務だと思います。
 実際、アメリカの大手企業ではMBAの経営知識の前にエンジニアリングを学んだCEOが少なくありません。人気の金融商品の開発も、科学技術の知識抜きには行うことはできません。地球環境問題も行政や福祉も、サイエンス領域の知識を必要としています。科学技術はいま産業界はもちろんのこと、企業経営や経済、政治にもなくてはならないものになっています。東京電機大学ではこうした視点に立ち、広い視野と高い専門性をもつ世界に通用する技術者の育成に全力で取り組んでいきます。
 若者は、機会と場を得たとき、大きく成長します。そうした場と機会をできるだけ広げることも大学の使命だと思います。例えば、東京電機大学では「IDCロボットコンテスト」を支援し、学生を参加させています。これは、参加した各国の学生(2007年は6カ国44人)が混成チームをつくり、1週間で素材やサイズ、機能など規定の諸条件を踏まえたロボットをつくるというもの。国籍も言葉も考え方も違う学生との共同作業は、学生にとって貴重な経験であり、大きく伸びる契機ともなるのです。
 科学技術は、地球と人類の豊かな未来のためにあります。そこに夢を託し、がんばる若者を東京電機大学は心から待ち望み、120%の力で応援していきたいと考えています。