  
●3年間かけて興味・関心から体験学習を重ね、夢の実現を図る「ドリカムプラン」
●ドリカムプラン
- 学習活動のすべてがドリカム
- 3年間で進路設計能力を育成
- 「のれん分け」で指導を継承
- 1年生に「総合的な学習の時間」
- 10、20年後を考えるから始める
- シラバスレポートで1学年修了
- 自己発信力の育成を重視
- 体験活動を重ねる2学年
- 自主的活動に公欠扱いも
- 修学旅行前に英検2級取得
- 高大連携でジョイントセミナー
- 実績が示した進路学習の成功
- 「進化」を続けるドリカム
- 【★】「10年後の私・20年後の私」の書式
●ドリカムプラン
学習活動のすべてがドリカム
城南高校の「ドリカムプラン」は全国的に有名な一方で、その全体像がなかなかつかめないという声もある。それはドリカムプラン自体が、先に述べたように、最初からきちんと計画されたものではなく、現場の教員による試行錯誤の積み重ねの中から生まれ、現在もさまざまな工夫・改善が行われていることが理由の一つといえる。
平成6年にスタートしたドリカムプランは、その後も「オーストラリア修学旅行」や「英検2級取得奨励」「弁論大会」「ディベート大会」「高大連携のジョイントセミナー」「小論文コンクール」「学校外単位認定」と年を追うごとに新しい取り組みが加えられ、「進化」を続けている。同校の教員たちが「1年たりとも同じ形を繰り返した年度がない」というほどだ。
同校ではドリカムプランを「生徒自身が自ら在り方生き方を考え、体験学習を重ねて、興味・関心・進路希望をもとに具体的な進路設計を作りあげ、自己実現を目指す生徒の主体的・総合的な進路学習」と定義しているが、ドリカムプランは特定の行事の集合体ではない。「ドリカムプラン」は、生徒の自主的活動まで含めた同校の学習活動全体であり、これも簡単に全体像がつかめない原因になっているようだ。
このようなドリカムプランの取り組みを同校では「多面体的同時進行形」と表現している。
3年間で進路設計能力を育成
ドリカムプランの3年間の流れをみると、第1学年は「調査=自己理解」、第2学年は「行動=自己啓発」、さらに第3学年では「実現=自己実現」と位置付けられていて、生徒は自ら考え、調べ、決定した将来の進路を目指して大学受験へと向かう仕組みになっている。
各学年ごとの活動を大まかに分けると、1年生では自分の進路を考え、ハートシステムや大学のシラバスを活用した大学・学部研究を行う。2年生になると自主的活動を含むさまざまな体験活動、大学のオープンキャンパスへの参加、高大連携によるジョイントセミナーなどを通して具体的な進路、志望大学などを決定する。3年生は実際の大学受験に向けた準備を進めることになる。
生徒は、各学年ごとにクラスを解体して志望別に10グループに分けた「ドリカムグループ」別に活動する。各ドリカムグループはさらに10人前後で構成された班に分かれており、具体的な体験活動は班長を中心とする班単位で行われることが多い。また、ドリカムプランのスタート当初、休業期間中の自主的活動を想定して各班に生徒間の緊急連絡網を生徒に作らせたが、これがその後の日常的な自主的活動の活発化に大きく寄与しているという。
ドリカムグループには、定員など人数制限はなく生徒は必ず自分の希望したグループに入ることができる。所属グループの変更も自由で、各学期ごとにそのグループの顧問教員に申し出るだけでよい。
このようにクラスとは別のドリカムグループを基本単位とすることで、クラス替え、担任替えがあっても教員は生徒の所属するドリカムグループでその進路希望がすぐに分かる。そればかりでなく、生徒ごとにドリカムの活動内容を記録・保存している「ドリカムファイル」を見れば、教員は1年次からの生徒各人の希望の変遷や活動実績が容易に把握できるという。
■3年間の指導体系
「のれん分け」で指導を継承
ドリカムプランの基本単位となるドリカムグループには、各グループの規模に応じた数の教員が生徒の活動支援のために「ドリカム顧問」として配置されている。ドリカム顧問には基本的に各学年の正副担任が就くが、平成6年より年次進行でスタートしたドリカムプランが完成年度を迎えた8年度からは、全教員がドリカム顧問となる全校指導体制が敷かれている。ドリカム顧問は部活顧問などと同様に校長の委嘱という形をとり、きちんと分掌化されていることも大きな特徴の一つだ。
ただ、全校指導体制といっても教員には異動があり、人の入れ換えは避けられない。教員異動が重なったために、いつのまにか消えていった研究・実践の例は学校現場では数知れない。このようなことを防止するため同校では、学年団のうち必ず一人が翌年度同学年の学年主任として降りていき、理念やノウハウを継承させていく人事配置方式を採用している。これを教員間では「学年主任の分家」「のれん分け」と呼んでいる。
このほか同校の組織面で注目されるものに、学年主任が進路指導部に所属していることが挙げられる。正副進路指導主任と各学年主任による週1回の「進路企画会議」でドリカムプランの企画調整が行われ、その内容は翌日の各学年会で伝えられる。
■指導組織体制
1年生に「総合的な学習の時間」
ドリカムプランは、放課後や休業期間中の活動まで含めたものだが、週時程上は進路学習ということで、昨年度までは木曜日のLHRと土曜日4限目の学校裁量の時間が当てられていた。隔週土曜日の学校裁量時間が週平均0.5時間として、単純に計算すると授業時数的には「1.5時間×35週」ということになる。
今年度は、ドリカムプランのうち学校・学年単位の活動などを「総合的な学習の時間」としてまとめ1年生で実施している。週時程では木曜日5限目に「総合的な学習の時間」(年間1単位)が置かれているが、実際には6限目のLHRと合わせて2時間連続で行っている。同時に学校裁量とLHRによる2・3年生のドリカムプランの時間も木曜日5・6限目に編成し直された。
「総合的な学習の時間」は今年度から学年進行していく計画で、平成14年度には全学年実施となる予定だ。だが、ドリカムプランがそのまま「総合的な学習の時間」になるというわけではない。あくまで学校・学年単位の活動などを「総合的な学習の時間」に移行するもので、ドリカムプランを中心にした進路学習全体の統合・再構築が今後の課題になっていくと同校では説明している。
■ドリカムシラバス
| ドリカムプランの3年間を通した活動計画を「ドリカムシラバス」として作成。行事や課外活動などさまざまな項目を盛り込んでいる。このシラバスに沿って週1回の進路企画会議(正副進路指導主任と各学年主任)で打ち合わせをしながら、具体的な活動内容を各学年で企画していく |
10、20年後を考えるから始める
ドリカムプランは1年生の5月に進路希望調査の作文「10年後の私・20年後の私」を書かせることから実質的に始まる。以前も1年生の進路希望調査は実施していたが、これを10年後、20年後の自分を考えさせることに変えた。進路とは「どの大学に入るか」ではなく、「自分の将来」であること、自分自身を探ることから進路選択は始まるということを生徒に自覚させるためだ。一方で「生徒の志望大学を知っていても、本当の興味・関心を知らなかった」(和田先生)という進学指導に対する教員の反省も込められている。
その後、講演会などによる職業研究、将来希望する職業に基づいた大学・学部研究のためのドリカムグループガイダンスを行い、6月から自分の所属するドリカムグループを決めに入る。
1年生になったばかりで理系・文系を明確にしなければならないことに生徒の不満もあるが、和田先生は「ドリカムグループの選択で自分の将来を考えさせるのがポイント。選択を突き付けることで真剣に将来を考え始める」と強調する。実際、学期ごとのグループ変更で約1割の生徒がグループを変えるが、最終的には最初に選択したグループに戻ってくる生徒が多いという。
■ドリカムグループ・顧問一覧
| 学年ごとにクラスを解体して志望別に10グループに分けるドリカムグループは、ドリカム活動の基本単位となる。各グループはさらに10人前後の班に分かれ班長を中心に活動する。また、各グループには「ドリカム顧問」と呼ばれる教員がチームティーチングで配置されている |
| 各学年の生徒志望実態・職員の配置等を考慮し、さらに、グループの細分化を行う。その場合、グループ番号は、1-1以下、同様に設定する。 |
シラバスレポートで1学年修了
1年生の後半の活動はハートシステムによる学部学科研究を行い、その後、放課後や休日、春休みなどを利用して九州大学内にある大学入試センター分室の「福岡進学情報サービス室」に出向いてシラバス研究をする。ここには全国の国公私立大学のシラバスが集められている。
シラバスの研究成果はシラバスレポート「私の聴いてみたい講義」としてまとめ、全員が提出することで実質的に1年生のドリカムプランが終わることになる。シラバスレポートは、2年生の初めにいくつか選ばれて、冊子にまとめられる。
自己発信力の育成を重視
各学年共通の取り組みでは、「自己発信力の育成」を狙ったドリカム弁論大会、ディベート大会、小論文日誌、小論文コンクールがある。もちろんAO入試や推薦入試などへの対策も視野に入れていることは言うまでもない。
ドリカム弁論大会は1年生「自分の夢」、2年生「ドリカム活動の体験内容」、3年生「自分の将来」をテーマにしており、ドリカム活動の体験共有化を図る意味もある。ディベート大会は、審判の方法をビデオで学ぶなど本格的なもの。小論文日誌は、各クラスごとに生徒が毎日交代で興味ある新聞記事を選び、要約と意見を書き、担任がコメントをつける。小論文コンクールは各種作文コンクールをリストアップして、生徒に応募させると同時に校内でも優秀作を選考し、冊子にまとめる。
■自己発信力育成のフローチャート
体験活動を重ねる2学年
2学年の大きな柱の一つとなっているのが「ドリカム活動」だ。これは積極的に校外に出て学問、職業などに関係した体験を積むのが狙いで、学年一斉行事的なものや、各ドリカムグループごとに企画するもののほか、グループの中の班や生徒個人によるものなど、多種多様な活動が行われている。
学年一斉の活動には、大学の施設見学や公開講座、講演会、コンクール作品の応募などがある。ドリカムグループごとの活動は、社会科学グループは「裁判所見学と模擬裁判体験」や「マスコミ見学」、「日銀見学」、医療保健グループの「一日看護体験」などが組まれている。これら学校が用意した活動のプログラムは全員参加のものはそれほど多くなく、ほとんどが希望者参加になっている。
自主的活動に公欠扱いも
昨年度までは週時程の中で使える時間が木曜日のLHRと土曜日の学校裁量時間に限られていたため、ドリカム活動の多くは放課後や休日での実施となっていた。だが、講演会など平日の昼間に開かれるイベントも多いため、同校では生徒が平日昼間の講演会参加などを申し出てきたときには、内容を審査した上で授業の公欠を認めている。
今年度は1年生に「総合的な学習の時間」を導入したことを受け、全学年とも木曜日5・6限目をドリカム活動に使えるようになったため、できるだけ平日の校外活動はこの時間で実施する方針だが、生徒が平日昼間に自主的活動を行う場合は、公欠を認めていくことにしている。
生徒は活動するたびに「ドリカム活動レポート」を顧問に提出し、顧問が確認したあと生徒がドリカムファイルに保存しておく。活動の多い生徒のファイルはどんどん厚くなっていく。一方、活動の少ない生徒はファイルが薄いままだが、無理強いはしない。「自主性とは育てるもので、強制するものではない」という考え方だ。
生徒の自主的活動を促進する方策として、同校では学校にくるイベント案内・広告などを全部進路指導室に集約している。集まった情報は進路企画会議で審査の上、志望系統別に分類した「ドリカムイベント案内」としてまとめており、今年度は7月現在で12号まで出している。
■平成9年度 2年生ドリカム活動
修学旅行前に英検2級取得
2年生は毎年12月にオーストラリアに修学旅行に行くが、城南高校では修学旅行と英検2級取得をセットにしてドリカムプランの中に取り込んでいる。
オーストラリア修学旅行は、もちろん旅行的な行事も含まれているが、メインになっているのが、姉妹校になっている現地の高校への語学研修を兼ねた訪問だ。この中で生徒たちはオーストラリアの高校生と長時間にわたり一対一で交流する。交流するには当然、英語能力が必要だ。
このため同校では英検2級の取得を奨励しており、生徒たちはオーストラリア修学旅行に向けて、英検2級を具体的な目標に各人が英語の力を磨いていく。今年の2学年団は英語によるディベート大会を修学旅行前にしようと企画中だ。
高大連携でジョイントセミナー
通年で行うドリカム活動と並んで2年生の活動の柱となっているのが、9月から12月にかけて実施される大学教員による出前講座「ジョイントセミナー」だ。同校は平成8年度に文部省(当時)から高大連携事業の研究委嘱を受けて、9年度に九州大学の協力で理系を志望する生徒向けの出前講座を実施した。
10年度からは文系志望生徒向けの講座も用意し、九州大学のほか九州工業大学、福岡教育大学、福岡女子大学、西南学院大学、久留米大学の6校の教員による16講座のジョイントセミナーを開いている。また、2年生以外の学年でも希望すれば参加できる。
生徒はドリカムプランの中で、1年生のシラバス研究で大学の授業内容を知り、2年生になるとドリカム活動の夏休みのオープンキャンパスで大学の雰囲気をつかみ、秋以降のジョイントセミナーで実際の大学教員の授業を体験することになる。
同校では2年生の理数コースの生徒のみ理数系講座の全員受講を義務付けているが、あとは希望者参加のかたちをとっている。講座そのものも昨年度までは通常の授業中に開講されており、参加する生徒は授業の公欠という扱いだ。今年度からは木曜日に2時間連続のドリカムプランの時間を置いているため、ジョイントセミナーも可能な限りこの時間帯に設定する方針だが、希望者参加の原則はそのまま残す。和田先生は「本人に興味・関心のないことをぶつけても寝ているだけですから」と笑いながら説明する。
■ジョイントセミナー実施内容一覧(平成11年9月〜平成12年1月)
実績が示した進路学習の成功
ドリカムプランで、3年生は「実現」の年に位置付けられている。1年生、2年生での活動や体験を基礎にして、将来の職業や進路、興味・関心によって選んだ大学の学部・学科に向けた受験準備の年となる。このため3年生の活動は、1・2年生でし残したことなどが中心となっている。実際問題として受験関係の事項伝達などでなかなか時間が取れなくなるという事情もあるようだ。
ところで、ドリカムプランは私学の台頭、現行学習指導要領で学んできた生徒への戸惑いという現場の危機感から生まれたものだが、「進学指導から進路指導へ」の転換の成果は当時、全く未知数だった。当時の校長先生が平成6年度末に「ドリカムプラン」を学校の生き残り策の柱にすると表明し、全校での取り組みと位置づけられたが、ドリカムプランづくりを推進した教員たち自身、ドリカム1期生の大学受験を前に「目先の進学実績よりもこの子たちの20年後を見てください」という進学実績低下の言い訳まで考えていたという。それが、合格者が出揃うころには平均100人だった国公立大学合格者が200人以上に倍増していた。彼らは入学当初、低学力で教員を嘆かせた生徒たちだった。
同校はその後も国公立大学合格者200人以上という成果を出し続けている。その数字自体大きな成果だが、和田先生は特定大学の異なる学部をいくつも受けるような生徒がいなくなったこと、早い時期から目標を設定できる生徒が増えたこと、第1志望校合格率のアップなどを成果として強調する。
「進化」を続けるドリカム
同校では今年度の1年生から学年進行で「総合的な学習の時間」を導入することにしている。それまで学校裁量時間などを使って実施していた進路学習を「総合的な学習の時間」に移行させるとともに、各種の活動プログラムの統合再編も課題に挙げられている。
既に「総合的な学習の時間」の1年生では、情報収集能力を身につけるためのインターネット講習会の実施、職業人講演会から職業ガイダンスセミナーへの組み替えなどの見直しが行われている。各学年で取り組むテーマも今まさに検討中で、ドリカムプランは今後ますます「進化」していくことになりそうだ。
「総合的な学習の時間」の参考とするため城南高校を視察する学校は多いが、生徒の主体的な進路学習という取り組みに戸惑う高校関係者も少なくないようだ。一部には「国公立大学に200人も合格する学校だからできる」という見方さえある。だが、ドリカムプランは新旧教育課程の過渡期という「非常時」における現場の教員の努力によって生まれたものだ。
「教育課程を配当時間数の奪い合い程度にしか考えていなかったが、学習指導要領を読み解くという当たり前のことが大きな示唆を与えてくれた」という和田先生の言葉は、新学習指導要領実施を目前にした今こそ当てはまるのではないだろうか。
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