今年も予備校の授業がはじまった。毎年、理想に燃え、夢を描く高校3年生がやってくる。
ところで、昔の予備校は、ただひたすら志望大学の合格のために、勉強を教えてきた。それでよかった。
毎年のことではあるが、私は彼らの希望大学をきいてみる。すると、私の担当する授業が生物であることからか、「医者になりたい」「獣医になりたい」という答えが多く返ってくる。そこで、余計なお世話かも知れないが、「なんで医者になりたいの?」と理由をきく。ほんの一握りの子は、この時点でしっかりした回答をする。「遺伝子の勉強が好きで、この方面から癌を克服する方法を確立したい」大人顔負けのこういう子は不思議なほど受験で失敗しない。生きる目的がはっきりしているからだ。なるほど、目的がはっきりしていれば、何をすれば道が開けるか、自分に何が足りないのか、おのずとわかるのであろう。
大抵の場合、「うーん、医者にあこがれる」「親が医者だから」「獣医になって野生動物の保護がしたい」「なんとなく」など、やっとのことで引き出した答えが返ってくる。医師や獣医師という職業に対して漠然とした憧れをもっているだけなのだ。こういった回答の場合、志望大学に必要な学力とかけ離れた子が多い。獣医志望の子に「野生動物の保護は環境庁や動物生態学の仕事だよ」と現実をつきつけると、頭が真っ白になってしまう子も多い。毎年そうなのだが、自分の志望大学や学部が何を行っているか、自分の学力はどの程度か、志望大学に入るためにどれくらい勉強したらいいのか、など自分で把握している子は少ない。
そこで、高校ではどういう進路指導を行っているのか質問する。「もっと勉強しなきゃ」「浪人しないと今のままでは無理じゃないかと言われた」「ほとんど先生の言うことは聞いていないよ」…とりつく島もない。注意深くきくと、高校では、熱心に、彼らを傷つけないように、慎重に進路指導している。しかし、彼らにかかれば、それは先程挙げた、たった一言に集約されてしまうのだ。
夢をつかみたい。しかし、現実と夢をつなぐ距離感がない。年々増えてくるこういった子供達。幸い、予備校に来る子達は、やる気だけはある。このやる気を低下させないよう、夢と現実の距離を気づかせるところから予備校の授業ははじまる。それが現実である。
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【プロフィール】
いいだ・たかあき●
河合塾講師*1968年三重県に生まれる。広島大学教育学部(理科)卒業後、同大学院理学研究科博士課程に在籍中の1995年より、河合塾広島校で生物を担当。2000年より、東京地区へ移籍し、現在、東大オープンや全統マーク模試をはじめとする模擬試験やテキストの執筆を手がけ、東京と広島を毎週往復し、生物の講義を行う。人気、実力ともに高い評価を得ている名物講師*著書に「こだわって!国公立二次分野問題集(河合出版 小畑成美・前田真共著)」がある。
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