親子の会話。簡単なようで、むずかしい。しかし、子どもが「こんなことを言ったらヘンに思われるかな」「内申書に響くだろうか」などと気にせずにホンネで大人と語り合える唯一の会話、それが親子の会話というものだと思う。
それが最近、変わってきた。親子のあいだでも、相手の顔色をうかがったり嫌われないために深入りを避けたりしてホンネを語らない、という傾向が目につくようになってきたのだ。
高校生の娘のことで相談に来た母親が、ため息をついてこんなことを言った。「外泊を繰り返す娘ですが、携帯電話でメールだけはよくよこすんですよ。内容は他愛ないことですけれどね。だから、娘とコミュニケーション取るために、私もメールを一生懸命、練習しているんです」。
私が、「それはいいのですが、お母さん自身は娘さんの外泊をどう思っているのですか?」ときくと、「それはやっぱり、やめてほしいですよ」と答える。「じゃ、メールで雑談する前に、まずそのことを伝えてみたらどうですか」と言う私に、その母親はさらに困った表情を見せてこうつぶやいた。「でも、みんなそうだって言うし…。ウチだけ外泊はダメ、なんて言ったら、娘は私のことを嫌いになって、もうメールも送ってこなくなってくるかもしれないし…。」娘を理解しよう、なんとか対話しよう、という親心は十分にわかるのだが、それにしても自分の言いたいことも言えないまま、表面的なメールだけをやり取りしている親子関係は、どこか不自然に思える。
心理学者の河合隼雄氏は、『大人になることのむずかしさ』(岩波ジュニア新書)の中で、思春期の親子の衝突が子どもの成長のためには欠かせないことを述べている。芽生え始めた自我が親からのひとことで傷つけられ、それに負けじと子どもが言い返して起きる親子の衝突を乗り越えたとき、自我はひとまわり大きくなっていることだろう。そこで親が「のれんに腕押し」の態度のままでいると、子どもは傷つくこともないかわりに成長のチャンスも逸してしまうことになる。
「そんなの、おかしいわよ」「何言ってるの、おまえが間違ってるよ」。ズバリ、告げられるのは親だけだ。親子のあいだの本音トークに、おそれずにチャレンジしてもらいたい。
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【プロフィール】
かやま・りか● 精神科医・神戸芸術工科大学視覚情報デザイン学科助教授。1960年札幌市生まれ。東京医科大学卒。学生時代より雑誌等に寄稿。現在も臨床を行いながら新聞、雑誌で社会批評、書評なども手がけ、現代人の"心の病"について洞察を続けている。専門は精神病理学だが、テレビゲームなどのサブカルチャーにも関心を持つ。主著に『切ない…。』(青春出版社)、『「愛国」問答』(中公新書ラクレ)ほか多数。
ホームページ:
http://www.caravan.to
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