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共通テキストで実現する、身体コミュニケーション
授業や講演など人前で話すことが多いのですが、聞いている人がうなずいたりメモを取ったりしてくれると、自分が話していることが受け止められているんだなあとホッとします。話す側は、自分の出したメッセージが、さほど意味がないのではないかという不安と常に戦いながら話していますから、反応があるとそれだけでその人を好きになっちゃう。この"レスポンスする身体"が命です。それがコミュニケーションの基本ですから。親や教師にとって一番不安なのは子どもが仕事に就けるかどうかですよね。でも、この"レスポンスする身体"があれば、たいていの仕事はできるんです。これからの社会で間違いなく必要とされる力ですから、身をもってコミュニケーションを取り、その大切さを教え込む必要があると思います。
ただし、直接教えるには限界がありますから、教師と生徒、親と子が共通して理解できるテキストがあったほうがいい。例えば私が大好きな文章に、幸田文の『なた』という作品があります。薪割りを教えることで、父(幸田露伴)から娘へ生の美学が身体から身体へと伝承されている様子が描かれているんですが、これは、「渾身」という「生きる構え」を伝える理想的なテキストだと思います。「おまえはもっと力を出せる筈だ、働くときに力の出し惜しみをするのはしみったれで、醜で、満身の力を籠めてする活動には美がある」と。説教だけだと抽象的になっちゃうところを、力を1点に集中させることの大切さを具体的に教えているわけです。このテキストの伝えんとする常に渾身という精神から、公共心や志の大切さも教えることができる。自分の幸福だけを追い求めていたら仕事はできません。「プロジェクトX」を見ているとそうでしょう? 社会や会社をもっとよくしたい、いまみんなでがんばらないと船全体が沈むんだ、という思いが仕事のエネルギーを生むわけです。それが子どもたちに伝われば、もう大丈夫です。
さいとうたかし1960年、静岡生まれ。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション技法。主著に『身体感覚を取り戻す』(新潮学芸賞受賞)、『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞受賞)、『子どもたちはなぜキレるのか』『三色ボールペンで読む日本語』『質問力』ほか多数。
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