高校生、大学生の若いときから知っていて役立つ考え方、それがあるおかげで、より有意義な生き方ができるようなアイデアがいくつかある。いくつになっても夢をもつことの大切さ(連載の第1回)、多少しんどくなっても節目だと思うときには大きく深く考えることの意味(連載の第2回)、打ち込むことのすばらしさを早く経験することの効果(第3回)、勉強や仕事の場(学校や会社)が好きだという気持ちをもつ意味(第4回)、未達の課題があるからより高いレベルをめざしてひとはがんばるのだという洞察(第5回)。これらのことをこれまで述べてきた。
全体として言いたいことは、若いときから夢や大きな絵をもって努力することの尊さだ。これだけだとまじめすぎると言われそうなので、第6回は、遊びの効用について(まじめに)述べてみたい。やっていることが楽しい、気分に余裕がある、そのおかげで、うまく動けるという要素は、真剣に生きようと思えばより大切になってくる。
昔から、仕事はおもしろくないもの、それはできたら避けたいもの、でも働かないといけないからそうしているという考えがある(このことを深めたいひとは、J.キウーラ『仕事の裏切り』翔泳社、をご覧いただきたい)。同じように、勉強はおもしろくない、いい大学にいっていい会社にいくため、仕方なくやっているというひとも多いだろう。ふつうは、そういうものかもしれない。やっているプロセスは、おもしろくなくて、ときにつらくても、うまくできだしたときはうれしくなる。いい点がとれたときに達成感があるからがんばるというひともいるだろう。
しかし、仕事でも勉強でも、一生懸命やっているうちに、それをしているプロセスそのものが楽しくなってきたらしめたものだ。そうなると忙しいなかにも余裕が出て、動きがよくなり、プロセスも楽しめるようになる。会社でひとを動かす管理職のひとたちの大半が、「ひとは、鞭(ムチ)と飴(アメ)がないと働かない」と前提しがちだった時代に、「ひとは、スポーツやゲームをやっているのと同じように仕事を楽しめる」という前提に基づいて、みんなを引っ張っている管理職のひとたちもいた。MIT(マサチューセッツ工科大学)のダグラス・マクレガーが早くも1960年にはそういう主張をした。
達成した結果がうれしいというだけでなく、がんばっているプロセスそのものに楽しみの要素が出てきたらしめたものだ。そうなってくると、仕事や勉強のなかに「遊び」の要素が出てくる。そして、実際に、若いベンチャー系の経営者が仕事に深く打ち込むのは、結果だけでなく、プロセスの動きのなかにも楽しみが生まれてくるからだと言うひとがいる(M.シュレーグという著述家は、そういうひとにとって、仕事とは、「真剣な遊び(serious
play)」になっていると結論した)。
遊びという言葉の元の意味をご存じだろうか。それは、出歩く、動く、それも未知の領域をめざして動くという意味合いだったのだ。だから、遊牧民というときの「遊」、車のハンドルの遊びというときの「遊」、踊ってみせる遊女というときの「遊」がその原義に近い。
甲骨文字から象形文字の意味を解きほぐしてきた白川 静氏によれば、遊とは、ひとが旗をもって自分が住んでいる場所から外に動く様を表す。その旗は、自分の氏族の印で、外には異なった神々がいるから、自分たちの氏族神の旗印を掲げて動くわけだ。移動中には、氏族神である神がときどき姿を現すが、それは、遊んでいる姿であるという。だから、神を迎える祭りで遊女が踊るときには、人間が遊んでいるだけでなく、より本来的には、その場では神が遊んでいることになる。
遊の人文字をめぐる白川学説の深い意味合いを要約するのは不可能だが、遊ぶとは、高貴な動きにかかわりがあり、しかも、未知の世界への移動を司っている。
勉強のなかにも(仕事のなかにも)遊びの要素があるということは、この最も深い意味では、自分が勉強のみで(あるいは仕事のみで)がんじがらめにならずに、余裕をもって動けるということを示唆する。ハンドルを少し切っただけで曲がったら、かえって危ない。ハンドルにもブレーキにも遊びがあるから、しなやかに運転できる。ちょっとおおげさなようだが、打ち込むときにこそ、遊びもいるという意味合いを、かみしめてほしい(それは、高校生だけでなく、先生も、保護者も、わたしたちも)。 |  |
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| 【プロフィール】
かない・としひろ●
神戸大学大学院経営学研究科教授*1954年、神戸生まれ。京都大学教育学部卒業、同大学院経営学研究科修士課程修了。MIT(マサチューセッツ工科大学)Ph.D.(経営学)、神戸大学博士(経営学)。94年より現職*リーダーシップ、ネットワーキング、モチベーション、キャリアなど経営学の中でも人の問題に関わるトピックを主に研究*主著に『ニューウェーブ・マネジメント』(創元社)
『働くひとのためのキャリア・デザイン』(PHP新書)『仕事で「一皮むける」』(光文社新書)『はげましの経営学』(宝島社)ほか多数。
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