国公立・私立の受験を終えて、我が塾生は受験地獄から解放されて遊んでいるか、泣き笑いしているのか、いまだ戦っているのか、しばらく消息がつかめない。「みんなどうしてるかな」と思っているとある日ふと予備校にやってくる。
多くの場合は凱旋である。「先生のおかげで受かったよ」と感謝されるのは嬉しいのだが、あまり褒められてもお世辞のような気がしてならない。塾生が自ら勉強し、私はそれを手助けしただけに過ぎない。ときどき、「あのとき先生に怒られて悔しくていつか見返してやろうと思って頑張ったよ」と誇らしげに合格通知をもってくる子がいるが、これは文句なく嬉しい。
褒めてあげたいのはこちらの方である。とにかく凱旋してきた子の顔立ちは本当に精悍であり、かつての甘い根性の持ち主ではない。「大学で何をしたい?」とはるか一年前にきいた通りの質問をぶつけても、「苦手な化学を克服できて好きになったから、生物と化学の境界の部分をつなげてみたい」「ガン遺伝子の抑制の分野がまだまだだから、一生懸命勉強して新薬をつくってみたい」非常に内容が具体的でしっかりしている。「ああ、この子は本当に勉強したんだなあ」とつくづく思う。
合格できなかった子、自分の思い通りの学部に行けなかった子もときおりやってくる。「先生、来年もよろしく」「もう一年頑張ってみる」「来年こそ頑張るから見捨てないでね」などと、これまた屈託のない笑顔を私に見せる。恐らく予備校に来るまではどん底の気持ちだったはずであり、その苦悩が吹っ切れたときに顔を出しに来たに違いない。だから、この一年を振り返った敗因を尋ねると「受験対策が遅すぎた」「受験をなめてたよ」「いろんな誘惑に負けたよ…」などと、受験前には様々な愚痴を言っていた子どもたちが、最後には責任転嫁しない。実にさわやかであり潔い。私が「来年はもうちょい絞るからな」と言うと「そうしてもらわないと困るよ先生」「絶対文句言わないから鍛えてね」と真剣かつ柔らかい表情を見せる。受験前には口に出さなかった新鮮な言葉である。「この子、来年は合格できるな…よし、いっちょ頑張るか」。これが私の来年のモチベーションを高める原動力となっている。
合格・不合格、どちらにせよ受験生たちのドラマのクライマックスである。満面の笑顔、次の受験に備えた真剣な顔つき。毎年、この時期の塾生の一皮むけた姿を見る度にこう思うのである。「だから予備校講師はやめられない」
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| 【プロフィール】
いいだ・たかあき●
河合塾講師*1968年三重県に生まれる。広島大学教育学部(理科)卒業後、同大学院理学研究科博士課程に在籍中の1995年より、河合塾広島校で生物を担当。2000年より、東京地区へ移籍し、現在、東大オープンや全統マーク模試をはじめとする模擬試験やテキストの執筆を手がけ、東京と広島を毎週往復し、生物の講義を行う。人気、実力ともに高い評価を得ている名物講師*著書に「こだわって!国公立二次分野問題集(河合出版 小畑成美・前田真共著)」がある。 |
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