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リレーエッセイ 高校生がワカル、大人がカワル

(2004年5月31日掲載)

 アメリカの高校や大学・企業などの第一線で活躍するキャリアカウンセラー、また最近日本でも盛んになりつつある、コーチングのベテランと言われる人物には、いくつかの共通した特長がみられる。なかでも特に顕著なのは、卓越した傾聴(リスニング)能力があることである。彼らはコミュニケーションの達人であり、自分の体験や価値判断から一方的にアドバイスや情報を与えるのではなく、キャリア援助を求める学生やクライアントを共感的に理解し、相手の立場から思考や感情・意思・欲求・目的などを明確にするよう努める。こうして、相手の話をじっくりと聴くことによって信頼関係を芽生えさせ、これを基盤に現実的な意思決定と問題解決を進めてゆくのである。こう考えると、キャリア支援のプロとは、まさに傾聴技術に熟練し、クライアントとの対人関係を通じて問題解決を可能にする専門家と言えよう。興味深いのは、カウンセリングの本場とされる米国でも、経験の浅い未熟なキャリアカウンセラーは無駄な助言や質問をクライアントに浴びせやすいと、最近の調査が指摘していることである。相手の話をじっと聴くことの難しさは世界共通のことであり、訓練と経験が要求される事実を裏付けている。

 しかし、いくら傾聴が重要だと言ったところで、学生やクライアントの話を聴くだけでキャリア援助が成功すると考えるのは性急である。日本でキャリアカウンセリング研修を行って痛感させられることの一つは、参加者がキャリア支援を助言や情報提供と同一視する「アドバイス派」と、クライアントの感情を傾聴するだけの「リスニング派」の2グループに大別されやすいことである。前者は決まって企業の人事や学生指導などに携わってきた人であり、後者はカウンセリングの初歩をかじった人に多い。当然ながら、このような偏ったアプローチは、実践ではまず通用しない。一流のキャリアカウンセラーやコーチは、「アドバイスかリスニングか」といった二者択一ではなく、傾聴以外にも情報提供・問題解決・意思決定・クライアントの心理サポートなどの高度な技術も身につけている。これらのスキルを巧みに活用することによって、クライアントをキャリアゴールの達成まで導いてゆく。彼らはこれゆえ、コミュニケーションの達人と呼ばれるのである。

 抜群のコミュニケーション技術もさることながら、キャリア援助の腕利きは、さらにキャリア理論・キャリア測定(アセスメント)・労働市場情報・労働法規・能力開発・カウンセリング理論・援助に伴う倫理規範といった、幅広い分野についても精通していなければならない。こうした知識や技能はコンピテンシー (competency) と総称され、日本でも実施されているキャリア支援者(GCDF)の研修カリキュラムでは※12項目が規定されている。キャリアの専門家に課せられたコンピテンシーが広範囲にまたがり、その修得には絶え間ない努力が必要とされるが、これらを十分にマスターして、初めてコンピテント(competent)、すなわち有能なキャリアカウンセラーやコーチとして認められるのである。

大谷 彰

【プロフィール】
おおたに・あきら
米在住カウンセラーメリーランド大学カウンセリングセンター、シニア・サイコロジスト。1955年大阪生まれ。高校在学中に米国オハイオ州へ1年間、家庭滞在留学を体験する。帰国後、上智大学外国語学部英語学科に入学し、卒業と同時に再度渡米、西バージニア大学院にてカウンセリング心理学を修める。教育学博士。ジョンズ・ホプキンス大学助教授を経て1989年よりキャリアと臨床心理のカウンセリング実践を行う一方、GCDFインストラクター、京都ノートルダム女子大学客員教授として日米で積極的に研修・講演活動を行う。著書に『カウンセリング・テクニック入門』(二瓶社)はじめ論文多数。

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