「アメリカの大学は入学しやすいが、卒業しにくい」とよく耳にする。授業料の急騰にともない、アメリカの大学入学も近年困難になりつつあるが、それでも日本の入試に較べるとやはりまだ楽な方と言えよう。しかしながら入学の容易さはそれだけ問題をかかえる学生が多いということを意味する。日本でも定着した学生カウンセリング相談センターといった組織がアメリカの大学に早くから設立されたのも、実はこうした背景を踏まえているのである。
2001年度のアメリカの高等教育リサーチ研究所 (HERI) の調査によると、最近の新入生には( 1 )家族によるサポートの低下、
(2) 悩む学生の増加、 (3) 問題の深刻化、 (4) 精神衛生の悪化、が目立っている。ちなみに新入生のドロップ・アウト、すなわち「落ちこぼれ」は
32.7 パーセントにも達しており、まさに3人に1人の学生がキャンパスを去ってゆくという現状である。 ドロップアウト
した学生の多くは再入学にトライするが、日本の大学ではまず考えられない数字であろう。そうでありながら、「専門カウンセラーによる援助を受ける意思がある」と回答した学生数はわずか
6.6 パーセントに過ぎなかった。こうした数字が大きな社会問題を示唆していることには間違いないが、アメリカのマスコミで特に取り上げられなかったのは、やはり大学生活が新入生にとっては艱難辛苦であり、ある程度の自然淘汰は仕方がないと考えられているからだと思われる。
青少年の発達を研究した、ニューヨーク州立大学のマイケル・バーゾンスキー教授によると、アメリカの高校生や大学生は意思決定のアプローチによって3種に大別できる。第1は必要とされる様々な情報を収集し、それの分析から意思決定を試みる「情報
(information) タイプ」である。このタイプの学生は自分の問題や悩みに対して積極的に取り組み、自我の確立が最も進んでいる。2番目の「規律
(normative) タイプ」 は両親や尊敬する恩師・先輩などの意見に従うグループで、意思決定にあたり慣習を重んじ、既存の価値観や自己の信条に固執する。このため判断は柔軟性を欠いた保守的なものになりやすい。最後の「分散
/ 逃避 (diffuse/avoidant) タイプ」は自己の当面する問題と積極的に取り組まず、成り行きまかせに意思決定をおこなう学生たちである。3つのうち、このグループに最も問題が多いのは言うまでもなかろう。最近のメリーランド大学カウンセリングセンターのアンケート調査によると、情報タイプは女性に多く見られ、男性には分散
/ 逃避タイプが目立ったが、規律タイプには男女差がなかった。こうしたデータは同じ過酷な状況におかれた新入生でも性別や意思決定スタイルによって、その対処の仕方が大きく違ってくることを示している。
もし同じ調査を日本の高校生や大学生対象に行ったら、果たしてどのような結果が出るであろうか? 日米文化の違いから、情報タイプの学生が個人主義と自己決定を重視するアメリカの理想像とすれば、しきたりやタテの人間関係が尊重される日本では規律タイプの学生が意外と多いのではなかろうか? この場合、自我はどのように確立されてゆくのであろうか? また日本の新入生にはどのような困難が待ち受けるのであろうか? 興味は尽きない。今後の研究が待ち望まれる。
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