―日本最北端の動物園である旭山動物園といえば、今年の6月にオープンした、筒状の水槽内を行き交うアザラシが間近で見られる『あざらし館』などが大人気です。年間入場者数100万人突破も目前とか。
私が園長に就任した翌年の 1996年度の入場者数は、 67 年に開園して以来最低の 26万人を記録したんですが、
97年度からは毎年上昇を続け、 03年度は 82万 3000 人の方にご来園いただきました。全国の動物園で第8位です。今年7月の月間入場者数に限って言えば、東京の上野動物園を抜いて、初めて全国1位になりました。北海道新聞が今年のゴールデンウィークの直前に行った調査でも、ゴールデンウィークに行きたい道内の行楽地で第
1 位になりました。ありがたいことだと思っています。
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97年度からの5年間で、地域に与える経済波及効果が 72億 5000万円と市から報告され、不況が深刻だった旭川市や北海道の経済の救世主、と称賛されていますね。今年の5月に来園した竹中金融・経済財政担当大臣も「地域再生につながる優れた事例として興味深い」と発言されています。この人気上昇の要因はどういったことがあるのでしょうか。
皆さんからそうおっしゃっていただいていますが、別に「100万人突破を目標にしよう」、などとやってきたわけではないんです。あるべき動物園の姿を追求していったら、結果として来園者も増えていった、というのが実感値ですね。その、あるべき動物園の姿にしていきたい、というのは、とくに私が園長になってから言い出したわけではなく、前の園長の時代である20年も前から一貫して言い続けていることではあるんです。なかなか市議会などの理解が得られませんでしたが、たまたま私が園長になった次の年に
26 万人に落ち込んで、市も閉園か存続か、考えたんだろうと思うんです。結果、存続させることになり、小菅がうるさいから少しは聞いてやろうか、ということになったんだと思います(笑)。
―改善していく予算がついたんですね。ところで、あるべき動物園の姿とは、どういったものなのでしょうか
。
入場者が少ない頃は、動物たちはオリの中で寝てばかりいたんです。「これじゃつまらない」という来園者の声が気になっていました。我々が考える、あるべき動物園とは、命の多様性を感じてもらう場所なんです。この地球上では、実にさまざまな動物たちが、いろいろな生き方をしている。そのように動物たちが自分の能力をフルに発揮している姿を見せてあげることで、初めて地球とは何と複雑なものなんだろう、ということがわかって、これらの動物たちを尊重して保護しなければならない、と感じると思うんですね。それに、自分の能力をフルに発揮している動物を見れば退屈はしないはずですから(笑)。
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まず、何から手をつけられたのでしょうか。
迫力ある動物や希少動物を入れた、と思われたでしょう? 違うんです(笑)。珍獣ならばテレビやビデオでいくらでも見られる。サーカスを見に行ったっていい。それよりも、動物園は命を感じてもらう場所、という原点をしっかりしておきたかったので、私はまず、ウサギやヤギを触ることができる仮設の「ふれあいコーナー」を作ったんです。今の子どもたちには、命というものの実感値が乏しくなっているのではないか、という思いもありました。ある中学生が、そこでニワトリのトサカに触れて「あったかい!」って叫んだんです。それまで、その子はニワトリのトサカがあたたかいことを知らなかったんですね。ヘビやカメの体温は低い、ということを知識では知っていても、実際に触れたことはないから、触ってみて「本当に冷たいんだ」と驚くわけです。そういったことを通じて、命の大切さというものがわかるのではないかと思うんですね。「命を大切にしよう」などと言葉でいくら言っても、伝わらないんじゃないかと思うんですよ
。
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反響はいかがでしたか。
来園者が30万人に回復したんです。必要とされていたんですね。もうひとつ、「ふれあいコーナー」でいい光景がありましてね。子どもだけではなく、お父さん、おじいちゃんと揃って1つの動物をめぐって輪ができていたんですよ。世代を超えて関心を呼んだんですね。
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その後、「ととりの村」「ぺんぎん館」「オランウータン空中運動場」「ほっきょくぐま館」などと、毎年のように新しい展示法を導入されました。それで入園者がうなぎ上りになるわけですね。展示法はどのように研究されたのでしょうか
。
アメリカのシンシナティで、ある会議があったときに近くの自然動物園に行ってみたんです。そこは、動物が棲むありのままの環境を再現して生態展示をする動物園として有名でした。実際に行ってみて最初はショックを受けましたね。立ち上がれないほどでした(笑)。オランウータンの園舎はボルネオのジャングルを再現していて、道を進んでいくと、だんだん薄暗くなって靄(もや)がかかってくるんです。川も流れている。そうやって奥に入っていくとようやくオランウータンに出会える、という仕掛けです。そんなストーリー性があるんですね。維持費にもべらぼうな金額をかけているそうです。ところが、肝心のオランウータンは一向に動かない(笑)。それで、動物にとってどんなに素晴らしい環境を作ってあげてもニセモノには違いなく、いくら「動物」だって動く必要がなければ動かないものだ、ということがわかったんです
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なるほど。
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退屈なときに何かしようと考えるのは人間だけなんですね。動物は寝ているだけ。ならば、退屈させなきゃいいと。本来、動物は野生ではエサを探して食べ、繁殖して子育てをする。それが生きる目的です。そこで、旭山動物園では、オランウータン舎の天井をとっぱらって、オランウータンが登れるように高さ
17 メートルの鉄塔を立て、13.5 メートル離れたところにもう1本鉄塔を立てて、横棒とロープを渡してみたんです。片方の塔にいるときに、もう片方の塔の下にピーナッツを置いてやると、オランウータンはそれを採ることを目的にロープを渡って降りてくるんです。それをお客さんは下から見上げることができる。別に植物に覆われている必要はなく、鉄骨の棒だろうがオランウータンは野生にいるときと同じように普段は棒の上にいて、食べものを求めて動くわけです。つまり、オランウータンの意思を尊重して、オランウータンの能力を発揮できるステージを作ったことになる。彼らは充実した日々を送っていると思いますよ。それが証拠に、国内では3年ぶりに赤ちゃんを産みました。しかも、施設ができてから連れてきたオスが、翌月にはもうメスに誘われて交尾して見事、妊娠というスピード(笑)。
17 メートルの鉄塔がオランウータンの心を開放したんですね 。
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それこそが「行動展示」なんですね。ほかの動物舎も同様の考え方で工夫されていて。筆者は、水中ドーム型の「ぺんぎん館」に入り、頭上を矢のように飛んで、ではなく泳いでいくペンギンにたまげました(笑)
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ペンギンはひょこひょこ歩くもの、というイメージが一般的でしょうが、さにあらず、なんです。アザラシも、水中をサーッと泳ぐ姿を目の前で見ることができるところが好評ですね。動物たちにとって得意な行動ができる環境では、人間に見られることなんか気にしないようです。我々でも思ってもみなかった行動をすることもしょっちゅう。ある意味、人間の上をいっています。そんなイキイキしている動物たちを見ている人間たちも幸せそうなんです。そして、「かわいい」だけじゃなくて、「すごい」って思ってほしい。そんなすごい生き物がいる環境なら、破壊できなくなりますからね
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