冒頭から私事で恐縮だが、私はとても不器用だ。医学部に入ったはいいが、そのあと実験や臨床実習で不器用さゆえの失敗を繰り返し、「不器用でもできそうな科は」とさがして、結局、精神科を選んだようなものだ。
だから、器用な人がとてもうらやましい。とくに美容師さんが手際よく洗髪やカットをしてくれるのを見ると、つい「すごいですね」と話しかけてしまうことも多い。よく行く美容室以外でも、たまにテレビ出演のときにヘアメイク担当の人がつくと、「子どもの頃から器用だったんですか」「この仕事を志望したのはいつ頃ですか」などとあれこれ聞いてしまう。すると大半の美容師さんやヘイメイクの人は、「小さな頃から家族や友だちの髪をいじるのが好きで、器用に結ってあげてほめられることも多かったので、高校を出てから自然に美容学校を目指しました」などと、美容の仕事への関心はごく早期から持っていたことを語ってくれる。それを聞くたびに、「そうかぁ、生まれつき器用な人や髪を結うのがうまい人って、いるんだなぁ」と感心してしまうのだが、中には「でもね」と自分の話に続いて打ち明け話をし始める人がいる。先日も、撮影の仕事で出会ったヘアメイクの男性が話してくれた。
「…というわけで、僕は子どもの頃から自分は美容学校に行くものだ、と決めてたんですよ。でも、僕の妹は大学を卒業したのに、何をやっていいかわからない、といまだにフリーターしてるんです。僕から見ると、若いのにやりたいことがない、なんて不思議なんですが…。なんてアドバイスしてあげればいいんでしょうね」
偶然なのかもしれないが、「妹や弟の進路が決まらずに困っている」という話を何人かの美容師さんから聞いたことがある。自分は得意技があって早々に「やりたいこと」が決まった彼らだからこそ、いつまでも「何をやっていいのかわからない」と言い続ける弟や妹のことが余計に心配になるのだろう。
「今は、そういう若者がたくさんいますよ。私が教えている大学の学生のほとんども、何やっていいのかわからない、って言ってます」と話すと、彼らは「そうなんですか」と少し安心したような顔をする。同時に「早々に進路が決まったあなたが、飛びぬけて幸運ということですよ」と言ってあげたいような気にもなるが、それは黙っている。若者の多くが彼らのように「これしかない」と自然に進路を決められるようになる日は、やって来るだろうか。 |