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リレーエッセイ 高校生がワカル、大人がカワル
(2005年2月21日掲載)

 やっと受験も一段落して、私も一息つくことができた。この一年を振り返るといろいろ考えさせられる。今回がこの連載の最後なので、一番気になったこと、すなわち私の世代で常識とされていたものが子どもたちに通用しないことを述べようと思う。

 先日、衝撃的な出来事があった。「太陽の移動方向」が鍵を握る入試問題の解説をしたときに、太陽が東→南→西へと移動することを知っていた塾生があまりにも少なすぎたのだ。これは入試以前の問題である。少なくとも、理系生には太陽の移動方向くらい知っていてほしかった。塾生に「学校で習ってないの?」ときくと、
「習ったけど忘れた」
「覚えてない」
「東西南北の位置がよくわかんない」
「まさか自分に必要な知識とは思わなかった」……。
  私は非常に驚いた。驚きすぎて呆然となっていたところ、塾生の一人が
「それってそんなに驚くことなの?」……。
  何と答えてよいか分からなかった。
「先生、生物用語は覚えていた方がいい?」
「こんなの全部どうやって覚えたらいいの?」

 ここ最近、よく塾生から耳にする質問であるが、私の世代 (今から20年くらい前)は、小学校から高校まで、勉強といえば覚えることであった。覚えることは当たり前で、覚え方を教師に質問したことなど皆無であった。何でも「気合で覚えれば何とかなる」。これが常識であった。しかし、今の子どもたちには通用しない。よく聞いてみると、知識を覚えるという癖を身につけていない。

 私の受験のころに「落ちこぼれ」という言葉が流行し、「知識偏重教育の脱却」「ゆとりの教育」が叫ばれ、学問の最も基礎となる「覚えること」が苦手な受験生を生み出してしまった。「ゆとり教育」を目指せば嫌でも子どもたちの「学力低下」を覚悟しなければならない。しかし、ここ一年で文部科学省の方針が揺らぎ、カリキュラムの見直しに着手するのをみると、どうやらその覚悟はなかったようである。

 受験生という立場からみると、知識は「覚えなければどうしようもない」の一言に尽きる。覚える癖を身につけていない……、これは受験生にとって悲劇である。「知識がない状態でものの考え方が育つ訳がない」。これが私の持論である。

 とにもかくにも、今年の受験が終わりに近づいている。来年からは新課程最初の受験生がやってくる。新課程では、さらに「ゆとりの教育」が加速し、私の世代の常識がさらに通用しない子どもたちがやってくることを覚悟しなければならない。だからせめて、彼らに「やる気」だけはあってほしいものである。大人のご都合主義の中、子どもたちが犠牲にならず健やかに育つことを願わずにはいられない。

飯田 高明
【プロフィール】
いいだ・たかあき
河合塾講師*1968年三重県に生まれる。広島大学教育学部(理科)卒業後、同大学院理学研究科博士課程に在籍中の1995年より、河合塾広島校で生物を担当。2000年より、東京地区へ移籍し、現在、東大オープンや全統マーク模試をはじめとする模擬試験やテキストの執筆を手がけ、東京と広島を毎週往復し、生物の講義を行う。人気、実力ともに高い評価を得ている名物講師*著書に「こだわって!国公立二次分野問題集(河合出版 小畑成美・前田真共著)」がある。
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