民間企業でキャリア教育研究プロジェクトに携わり、東京大学の副理事に転じて「キャリアサポート室」を立ち上げた竹原敬二氏。なぜ東大で「キャリアサポート」なのか。その背景と、「異質との出会いこそが人を育てる」という理念のもとに、東大生が社会と出会うために取り組んでいる施策についての報告があった。
1970年代以降の大学における就職活動の変遷を振り返ることから、竹原氏の講演は始まった。70年代、大学生の就職には教授推薦が主流だった。80年代に入ると、大学進学率の向上とともに就職先への自由応募が伸張する。90年代、情報化社会の進展とインターネットの出現、バブル経済の崩壊により、価値観の多様化が進む。そして2000年代。「就職氷河期」となった未曾有のデフレ不況と、それからの回復による空前の売り手市場が待ち構えている。「しかし、学生の悩みは深い」と竹原氏はいう。 「就職活動を前にしている学生たちは、決して楽しそうではない。生まれて初めて自分の生き方を真剣に考えなければならない局面に立っても、考えが深まらないことに苛立っている」。竹原氏らが東大の卒業生に大学の就職支援の必要性についてアンケートを取ったところ、学部卒者の70%、文科系の修士生に至っては、81%もが「もっと組織的に支援してほしかった」と回答している。「大学3年・修士1年の時点で、急に社会に出てやりたいと思うことを考えろ、と言われても唐突すぎるのではないか。中学・高校時代から人生観・キャリア観を養っておくことが必要で、そのためにも多彩な人々とのふれあいが大切」と竹原氏は指摘する。
東京都の公立中学校初の民間出身の校長に就任し、「学校の革新」という公的なプロジェクトに挑戦している藤原和博氏。「世の中のあらゆることが統合される本質的なキャリア教育」を目指す「よのなか科」という授業を、自ら教壇に立って実践している。この授業を題材に、いま学校や教師がなすべきことを鋭く喝破した。
講演冒頭でまず和田中「よのなか科」の紹介VTRが流れる。外部講師らしき中年男性や多数のオーディエンス。生徒たちが目をみはったり口々に発言する様子が放映される。続いて、本人も驚くほど似ているさだまさし氏との交流について会場を沸かせたのち、「“心の教育”が必要だとなると、ビオトープをつくって済ませているような教育界は思考停止状態にある。キャリア教育も同様で、単一のカリキュラムでは豊かなキャリア観を育むことはできない」。キャリア教育をめぐる教育界の現状に対しての強い問題意識を口にした。 藤原氏が考えるキャリア教育の本質とは、「全教科が包括されるような、“世の中のあらゆることの統合”にある」(藤原氏)。そこで、より理想に近いキャリア教育として、自ら考案し、実践しているのが週1回の授業「よのなか科」だ。 例えば「人間の知恵で商品の付加価値はどれだけUPするか」といったテーマが設定される。教材にはゴム製品など、ごく身近でありきたりなものが選ばれる。「身近な素材だと触れるたびに子どもが授業を想起する」(藤原氏)ことを意図している。100円ショップに行くと分かるが、輪ゴム1箱なら300本で100円(1本0.3円)、風船10個も100円(1個10円)、笛つきの風船だとこれが一つで100円、と徐々に付加価値がつけられていく例が説明される。 次に、参加者(生徒、保護者、見学者ら)は「自分ならどんな商品をつくるか」と問いかけられる。「自然に帰るタイヤ」「ガラスのように透き通ったゴム」などのアイデアを生徒が発言する。「これを繰り返していくうちに、普通の友だちの言葉を聞きながら世の中の奥行きを知り、世界観が広がっていく効用がある」と藤原氏は述べる。