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こころを病んで外来を受診される先生方のなかには、ご自分の教育理念をどうやって現実とすり合わせていけばよいのか分からなくなった、と悩まれている方が少なくありません。その大半は「数値目標」をめぐる悩みです。目標を設定することはもちろん大切だが、この問題を数値で評価していいのか?
はたして数値に表すことができるのか? といった疑問です。確かに、最近はとみに学校教育に求められるものが数量化されてきているように思います。それは世の中の動向でもあり、教育行政側の要請でもあるでしょう。とりわけ進路指導に携わる先生方にとって、高等学校の生き残りをかけた合格・採用実績は容赦なく単純明快な数値の世界です。予備校ならばそれが組織の設立目的に他ならないわけですから割り切るべきでしょうが、高等学校となるとそうはいきません。
元来、数値として存在するものを計量することはもちろん必要な営みです。科学技術としてのITがめざましい進歩を遂げ、まだまだ未知の可能性を秘めているのは間違いありません。数値化するというデジタル思考の独壇場といえるでしょう。しかしその一方で、もともと数値でないものをそのままの有り様でとらえるというアナログ思考も捨てるわけにはいきません。文化遺産の保護や芸術活動の奨励がことさら重視されている風潮がそれを示しています。対照的な例を挙げると、デジタル表示の時計は行動の目安となる時刻を知るためには便利ですし、アナログ表示の時計は感覚の目安となる時間を評価するためには便利といってよいでしょう。すでに十分出揃った感のある現代社会では、デジタル思考とアナログ思考がそれぞれのメリットを活かし共存してはじめてバランスのとれた豊かな生活の場を提供してくれるといえそうです。
ところが、現在のわが国ではどうもデジタルが優勢のようです。進歩をむやみに追い求めてしまう心性に対してデジタル思考は親和性があり、アナログ思考は時代遅れのつまらない発想とみなされがちです。私はこうした社会病理を「進歩強迫症候群」と呼んでいます。0か100か? 白か黒か? どちらか早く結果を出せ! といったデジタル思考の席巻は、その間に0でも100でもないグレイゾーンがあることを無視しようとします。グレイゾーンにこだわっていたら「進歩」を成就できないからです。ここに、ある種のファシズムの気配を感じてしまうのは私だけではないでしょう。
もとより教育の世界にデジタル思考が馴染みにくいことは、教育者であればだれもが認めるところでしょう。そのために、最近の学校事情を憂慮したり、悩みこんでしまう先生方が少なくないことは無理からぬことです。すべてをデジタル思考に託すような愚を犯してはならないのは言うまでもありません。問題はそうした状況のなかで、すべてをアナログ思考にとどめて懐古趣味に浸ってしまう怠慢に陥ることなく、デジタル思考との共存をめざしていく分別と気概をどうやって持ち続けるか、に尽きるのではないでしょうか? |
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| なかじま・かずのり |
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| 1956年、広島県生まれ。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。精神科医、医学博士。1990年より社団法人東京都教職員互助会三楽病院精神神経科に勤務。1999年、同部長。2006年より東京都教職員総合健康センター長兼務。東京都教育庁委嘱医。東京医科歯科大学臨床教授。日本学校メンタルヘルス学会運営委員など。主著に『先生が壊れていく―精神科医のみた教育の危機』(弘文堂)、『あなたの学校は大丈夫ですか? 教師のメンタルヘルスQ&A』(ぎょうせい)、『こころの休み時間―教師自身のメンタルヘルス』(学事出版)、『教師と子どものメンタルヘルス―診察室からみた社会と教育』(東山書房)などがある。 |
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