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キャリアガイダンスセミナー2007レポート Part2
基調講演: 「いま大人が伝えるべきこと」
高校事例発表: 「進学校におけるキャリア教育の必要性とその方法」
全国調査報告: 「進路指導の現状と課題」
東京都杉並区立和田中学校長
藤原和博氏
民間出身者として初の公立中学校校長に就任した藤原和博氏。キャリア教育の本質を問う「[よのなか]科」という授業を自ら企画し、教壇に立って実践している。その内容とねらいについて語っていただいた。
“人生”が学校教育で語られていない
講演の冒頭で、藤原氏は「キャリア教育について、自分の哲学を話せる人」と来場者に挙手を求めた。極めて少数しか挙がらない。「挙手して指されたら正解を言わなければいけない、と思われたのだろうか(笑)。どんな答えでも正解。それくらい人のキャリアは多様性がある。しかし、いま中学や高校の教育で最も不足しているのはその多様性だ」と藤原氏は指摘する。国語や数学などの教科は、知識の要素を教える。しかし、その要素をどうつなぎ合わせれば世の中で使える“知恵”と“技術”になるのかは教えられていないのだ。「いま、大人が子どもたちに伝えるべきこととは? “人生”だと思う。人生というものが、いまの学校教育で語られていない」
「いまの子どもたちは高度な消費社会に生まれ育ち、それ特有の考え方を持っている。そのことを認識していないと、生きることに行き詰まりかねない」。昔は、例えば犬を飼うことになったら、犬小屋は木材の端切れをもらってきて自分でつくった。ところが、いまではまず完成品を買う。壊れても修理することなく、廃棄して新しいものを買う。「だから、会社まで“完成品”を求めるようになっている。よく就職活動中の学生から『3社から内定が出たが、どこが一番合っているか』と聞かれる。そんなことわかるわけがない。しかし、本人はピタリと合う完成品を探し、そう思って入社するから、3年もしないうちに『合わない』と感じて辞めてしまう」。会社も本人も変化する。最初からピッタリ合う会社などあるものではない。一生懸命仕事をし、10年くらい経って、ようやくお互いが必要な存在同士としてマッチするようになるのだ。「完成品を求め、それが合わないと捨てる。ところが、いまの日本のような成熟した社会では、正解は一つではない。試行錯誤しながら“納得解”を求めていかなければ人生はやっていけない」と藤原氏は言う。
“教育的瞬間”をいかにつくるか
「正解を求めるのは“情報処理力”いわば、ジグゾーパズルを早く完成させる力。“納得解”を求めるのは、“情報編集力”。ブロックで様々な形をつくりあげる力だ。ところが、戦後50年の学校教育は、正解主義の文化の中で情報処理力の速い人ばかりつくってきた」。いくら情報処理力が速くても、絵柄はつくれない。自分で世界観を描ける人間は育てられないのだ。「自分の世界観、人生観がすなわち幸福感につながる。自分の世界観を描けるようにするところに、キャリア教育の必要性がある」
社会生活の中では、パターンにはまらない“例外”的なことによく直面する。この時、自分の世界観を適宜修正し、折り合いをつけていく必要がある。そこで、どう対応すればいいかを考える力が“情報編集力”といえる。この“情報編集力”を養うために藤原氏が考えたのが「[よのなか]科」の授業なのだ。ここで会場には、和田中学校の「[よのなか]」の授業風景が映し出される。
「人間の知恵で商品の付加価値はどれだけUPするか」というテーマ。教材には身近でありきたりなゴム製品が選ばれる。輪ゴム1箱なら300本で100円(1本0.3円)、風船だと10個100円(1個10円)、笛つきの風船になると一つで100円、と徐々に付加価値がつけられていく例が説明される。次に、参加者(生徒、保護者、見学者ら)は「自分ならどんな商品をつくるか」と問いかけられる。「自然に帰るタイヤ」「ガラスのように透き通ったゴム」などのアイデアを生徒が発言する。そして、ゲストが登場。杉並区内にある、生徒たちにはなじみのない化学メーカーの経営者。ところが、その会社がつくる製品は付加価値の固まり。時計の文字盤に使われる夜光塗料が1kg100万円もする、と説明された時、一同は「エーッ!」と声を上げて驚く。ゲストの話に、全員が食い入るように耳を傾ける。「これが“教育的瞬間”。パターン認識が外れて思考回路が変わる」。この会社がつくるインクは、ある波長の光にだけ認識することから、ニセ札防止のために、円はもちろん、ドルやユーロの紙幣にも使われている。「地域にいる一般の方が、世界一のすごいことをやっていることを知る。付加価値のある仕事ということについて、生徒はすごい量を学んだだろう。探せば周辺にキャリア教育の題材はある」
“情報編集力”の涵養はキャリア教育の基本
「キャリア教育と聞くと、職業体験と調べ学習をやればいいと考える教員が多い。それもパターン認識。それで本質がわかるわけはない。教員が日々感じている疑問をそのまま生徒にぶつけたほうがよほどリアリティがあるのではないか」。そう指摘した藤原氏は、最後に、会場に配布された「[よのなか]」ワークシートに記載されている「連想ゲーム」のエクササイズを行った。「『風が吹くと桶屋が儲かる』という例え話がある。風が吹くとどうなるか、考えてほしい」と来場者に求めた。「風力発電の会社が儲かる」などの回答があった。「イマジネーションがかき立てられて頭が柔らかくなったことだろう。これも情報編集の一つ」
「キャリア」とは、広義では「どう生きるか」ということ。社会生活の中で様々な機会に遭遇するたびに、それを自分がよりよく生きることに取り込んでいければ、豊かなキャリアを構築していけるだろう。藤原氏が提唱する「情報編集力」は、そのために不可欠の能力。その涵養は、キャリア教育の基本なのである。
(撮影/竹内由美子)
京都市立堀川高校校長
荒瀬克己先生
「奇跡」と呼ばれた学校がある。2001年には6人だった国公立大学合格者が、翌年にはいきなり106人に増加。そして05年には180人と、たった4年で30倍に増えた京都市立堀川高校のことである。同校の学校改革について、校長の荒瀬克己先生に報告していただいた。
市の教育改革パイロット校に
会場のスクリーンに、「風 海に出て飛ぶ 光となりきらめく」「若き狩人 汝に幸あれ」と書かれたえんじ色の旗の写真が映し出された。堀川高校の受験生を応援しようと、同校の先生たちがセンター試験の受験当日に会場となったある大学構内に持ち込んだ時のシーンである。「1時間後に、大学当局から排除されました」と荒瀬先生は会場内の笑いを誘う。
99年、京都市の教育改革のパイロット校に指定された堀川高校。豊かな学校、理想の学校に向けた様々な取り組みが始められた。その“改革元年”に入学した生徒を、新しいスタートを切るという決意で「1期生」と呼んだのである。その1期生たちが卒業した年、106人の国公立大学合格者を出して、マスコミに「奇跡」と報道されるに及んだ。荒瀬先生は、9期生である現在の1年生まで、その位置づけを“物語”にしている。エピソードを織り交ぜながら紹介してくださった。
【1期生 道を拓いたパイオニア】
「改革の初年度。いろいろ失敗もし、そこから学んだが、すべてはこの生徒たちからもらった。いま、『教師力が大事』などといわれているが、一番大事なのは生徒が力をつける、成長する、つまり『生徒力』ではないか」
【2期生 道を広げ 確かなものに】
「静かな集団だったが、多くのことに丁寧に挑戦したのも彼らだった」
【3期生 その道を通って 可能性の荒野へ】
「『可能性の荒野』とは言っても、実はこの生徒たちは言うことを聞かず本当に苦労させられた。でも、とても面白かったし、京大にも32人合格してマスコミに大々的に取り上げられたのもこの生徒たちだった」
【4期生 道や野に木を植えた】
「植えたのはサルスベリの木。受験前に“すべる”とはいかがなものかと思うが(笑)、加賀千代女の句に『散りて咲き散りて咲きして百日紅』。出ていく生徒、入ってくる生徒、それぞれが咲いて、そんな学校にしたいと思った」
【5期生 木々に憩い 野をかける若き狩人】
「この年から3年生が2カ月かけて文化祭の準備をするようになった。だれか止めないと大変だとみんな思ったが、だれも止めなかった」
【6期生 吹き渡る風 さわやかに梢を揺らす】
「本当にさわやかな集団。この3月に卒業した。京大合格者は過去最高。これからの堀川を考える上で、実にいろいろな遺産を残してくれた」
【7期生 清らかなしずく 木々を、人を潤し 川となり海に注ぐ】
「ちょっとおとなしいから“しずく”。でも、本人たちは『自分たちは“虹”です』と言ってきた。なるほど、しずくは虹になる、と」
【8期生 無限の大地 風を受けしずくを蓄える土壌】
「この生徒たちは元気。『自分たちは“エイトマン”』なんて言う。学年主任が一生懸命エイトマンのシールを手作りして配ったりしている。現在成長途上の集団」
そして【9期生 光 ひろがりあつまり、かがやきてらす】
「さてどんな集団になっていくか。なにもかもこれからの1年生」
18歳で自立するため、“二兎”を追う
同校の改革の中味は、授業のあり方を見直し、進路指導のシステムを変え、普通科の学習内容を改善し、「探究科」という専門学科を創設したこと。地域の生徒が通う普通科のT類およびU類、府内全域から生徒が集まる探究科からなり、学力が異なる3つの学校が一緒になったイメージだ。同校の大きな特色である探究科は、基礎的な学習の上に、自ら探求する力を養うことを目的に創設された。文系コースの「人間探究科」と理系コース「自然探究科」がある。それぞれ、人文科学・社会科学系、自然科学系の学部での研究につながる学習を行う。ディベートなどを通じて基礎技術を習得し、ゼミで興味関心を深め、個人研究に取り組む。また、同校は「スーパーサイエンスハイスクール」の指定校となり、高度な実験機器や大学院生のティーチングアシスタントが導入されている。さらに、本能寺跡地に建てられた「本能館」という、探究活動専用の最新施設がある。なお、普通科でも「総合探究」という課題探究型の授業を履修する。
ちなみに、新築となった同校の校舎は、その形状から「BIG BOX」と呼ばれている。「しかし、中身は“the Nest of Youth”。3年後に飛び立っていくための巣。いっぱい失敗や挫折をしても、癒される用意をしよう、という思いでつくった」
改革においては、受験ノウハウをみっちり叩き込むプログラムでも取り入れたのかとよく誤解されるが、「堀川での3年間には受験に直接関係ないことがたくさんある」と荒瀬先生は言う。大学受験に合格することが人生のゴールではないからだ。「受験勉強で得られる知識の多くは、入試の時にしか使えない。しかし、高校生には未来がある。これから先の長い人生を生きていくためには、培っておかなければならないことがたくさんある。将来の夢をかなえるために、希望する大学に合格することも大切だから、それを乗り越える手助けもする。同時に、生徒が将来何をするにしても、社会で多くの人とかかわって生きていくための力もしっかりつけさせたい」。だから、同校では、目に見える学力としての受験対応力と、すぐには目に見えない、たくさんの学びや遊びを通して得られる「生きる力」の両方の獲得に取り組むのだという。「本校の最高目標は『18歳で自立できる青年を育成する』こと。そのためにも、二兎を追え、とよく言っている。『知識習得型の学習』と『課題探究型の学習』、『よく遊ぶ』と『よく学ぶ』といったように。2つを兼ね備えた勉強は、人としての裾野を広げ、本当の教養を身につけることにつながるからだ」
教員の仕事は、生徒自身の『学びたい』思いを育てること
「よく遊ぶ」を象徴するものとして、堀川高校の“名物”ともなっている文化祭が挙げられる。2年生はもちろん、受験を控えた3年生までもが2カ月かけて本気でクラス対抗のパフォーマンスに取り組む。本番当日は最高潮に盛り上がり、感動のフィナーレを迎えるのだという。「『小さくまとまらず、いい芝居をしろ』と発破をかけている。何のために勉強もしないで芝居をやってるんだ、と(笑)」。メイキングの様子を記録し、DVDにまとめて販売までしているという。また、1年次の3月に行く海外研修旅行では、「学校が用意するのは『飛行機』『宿泊場所』『安全の半分』の3つだけ。残りの『安全の半分』と『研修内容』は君たちの責任、と言っている」。そう言って生徒たちに高い意識を持たせ、研修内容を自分たちで決めさせているのだ。「『君たちの行動は君たちで考えなさい。君たちを信じている』。指導する側は、そういう思いを行動を通じて示していくことが大切」と荒瀬先生は強調する。
「多くの人が本音で知りたいのは、『生徒たちに好きな研究ばかりさせて本当に大学に受かるのか』ということだろう。答えは『イエス』」。同校の生徒たちが大学を決める時のポイントは、「そこで何が学べるのか」。合格することだけではなく、そこに行って何をしたいのか、を考えているのである。課題探究型の学習などに取り組んできたことを通じてやりたいことが見えてくる。その探究を深めたいから大学に行きたいと願い、そのために入試をがんばろうという思いが生まれ、受験勉強をやっていくうちにそこにも面白さを見出していく。そんなメカニズムがあるのではないか。生徒自身の「学びたい」という強い思いを育てていく。それこそが教員の仕事ではないか。「今となって“キャリア教育”などといわれているが、キャリア教育とはそんな当たり前のことだと思っている」。荒瀬先生の言葉は、核心を突いている。
(撮影/竹内由美子)
株式会社リクルート キャリアガイダンス編集長
角田浩子
小誌編集長の角田浩子が、小誌が昨秋、全国の高校の進路指導部を対象に行った「2006年 高校の進路指導に関する調査」の結果の抜粋を報告。進路指導における体験活動の重要性を強調し、高等教育機関の学校見学会情報を掲載する小社の進学情報誌「学校見学会へ行こう」を紹介した。
進路指導を困難にしている「入試の易化・多様化」
どんな高校で進路指導が難しいと感じているのか。「私立や進学率が40〜70%、総合学科の高校が最も困難を感じていることが調査ではわかった」と角田。多様な進路の生徒を抱えていることがその大きな要因と予測される。進路指導を困難にしている要因は、「生徒の進路選択・決定能力の不足」が65.0%でトップ。以下、「入試の易化・多様化」60.5%、「学力低下」56.8%と続く。「入試の易化・多様化」は、「多様化」という文言が項目になかった前回(2004年度)の26.9%から倍以上の増加。少子化の中、生き残りをかける高等教育機関が様々な形態の入試を導入している影響が見て取れる。ほか、前回調査より「保護者の無関心・放任」「家庭環境の悪化」「教員および生徒の意欲の低下」が増加していることがわかった。それらを大学進学率別に見ると、40%未満の高校で「保護者の無関心・放任」「家庭環境の悪化」「生徒の意欲の低下」が最も高い。逆に、「高卒就職市場の状況」「生徒の職業観・勤労観の未発達」などが前回調査よりも減少した。就職・雇用環境の好転の影響であろう。
高校生に不足しているものは、「基礎学力」が圧倒的に高く、全体的には「主体性」「目標達成意識」「計画立案力」「意思決定能力」が並ぶ。進学率40〜70%の高校では、「主体性」「目標達成意識」が目立つ。「安易に入れる大学を選ぼうとする」「すぐあきらめる」といった教員の悲鳴が届いている。また、家庭でのコミュニケーション不足や無責任など、保護者の問題を指摘する教員の声も多い。高校の進路指導の取り組みとしては、「進路ガイダンス」「進学面接指導」など校内で完結できる各種施策、「オープンキャンパスへの参加指導」「ハローワークとの連携」など外部との連携施策の実施割合が全般的に前回調査よりも増加した。特に「高大連携:大学教授により模擬授業」が+9.8ポイント、「情報誌など活字情報による進路研究」が+9.6ポイント、「資格取得・検定奨励」が+8.7ポイント、「インターンシップ」が+8.5ポイントと、前回より大幅に増加している。
進路指導の数値目標は、進学率が高い高校ほど策定していた。その内容も「国立大、有名大学への進学者数(率)」がトップ。策定している高校の約70%が「数値目標は有効」と回答している。ここで角田は数値目標の設定について、ある高校の好例を紹介する。「数値評価については、さまざまな議論があるところだろうが、例えば、山口県のある高校では、明確な数値を掲げることによって教員間で目標を共有し合い、達成に向け生徒一人ひとりの良さを丁寧に見ていく姿勢がうまれているという。数値目標設定の一つの効果といえるのではないだろうか」
キャリア教育を推進すれば、その有効性を認識できる
キャリア教育への認識については、「生徒にとって有意義」との回答は前回同様約53%と過半数を占めたものの、「学校現場で浸透するかどうかは未知数」「いまは注目されているがいずれ忘れ去られると思う」とのマイナス評価が前回よりも増加。とりわけ進学校ではキャリア教育は不評のようである。しかし、「キャリア教育について組織的・体系的な指導計画を策定している」などのキャリア教育先進校に限ってみれば、「生徒にとって有意義」は73.5%に跳ね上がる。「望ましい進路指導が実現できそうな期待が持てる」との認識にいたっては、キャリア教育先進校では61.1%、推進しているとは思われない高校では14.0%と大きな乖離があった。実際に、「生徒の意欲・満足度」「進路指導部の存在価値」「保護者の満足度」など、全体に比べて先進校は軒並み10〜20ポイントも高い。「キャリア教育を推進すれば、その有効性を認識できることを示す一つの指標だろう」と角田は指摘した。
今後の進路指導の見通しは、全体の約60%が「困難になる」と回答している。「大学に入るのが当たり前という時代の中で、本当に自分が何を学びたいかを考えられないまま進学してしまうのではないか」「情報過多になる一方で、情報活用力の不足により、生徒・教師ともに混乱する、もしくはあまり考えなくなる」などの意見が代表的であろう。しかし、「本当の自分とは何か」を考えていても「よくわからない」というのが実情。目標を決めてから行動を起こそうとしても、身動きがとれなくなってしまいがち。少しずつでも行動を起こしていくうちに、出合う機会によって「こうなりたかった自分」を発見していけることも多い。「体験活動がキャリア教育のキーポイント。先生方には、生徒に行動促進を働きかけてほしい」と角田。小社では、教育現場に対する支援の一環として、高等教育機関の学校見学会情報を掲載する進学情報誌「学校見学会へ行こう」を発行しており、「行動につながりやすくなるよう、学校別のプログラム内容が紹介されている。すでに進路を決めている生徒も、決めていない生徒も、大いに活用していただきたい」と案内した。
(撮影/竹内由美子)
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