キャリアガイダンスVol.414
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 米沢工業高校の定時制の生徒には、小・中学校で一度不登校になるなど、学校生活になじめなかった経験をもつ生徒が多い。3年前、この高校に異動してきた髙橋英路先生は、担任した1年生総勢10人に、こんな印象をもったという。「周囲に受け入れられるか不安で、自分の考えを表現することにやや苦手意識をもっているようだ」と。 だから髙橋先生は、2年次から、コミュニケーションに特に困難を感じている生徒数名に、始業前のSST(ソーシャルスキルトレーニング)を始めた。SSTのことは養護教諭から教わり、そこから自分でも勉強したという。 また、3年次からは、授業にp4c(philosophy for children=子どものための哲学)という教育手法も導入した。「正解のない問い」について、みんなで輪になって、毛糸玉で手作りしたコミュニティボールを回しながら意見を出し合う手法だ(下のカコミ参照)。授業研究のなかでp4cのことを知り、研修会に参加して理解を深めたという。話をまとめない・誘導しない・否定しないことが原則。生徒の「自分の考えを発信する力」と「他者の考えを受け入れる態度」を育むことを狙っている。 授業の進め方としては、まずは1コマを使って教科書の内容を押さえ、ある物事について「考えようというきっかけとなる知識」を生徒が習得。そのうえで、次の授業でその知識を使って「現在の社会につながるテーマ」を議論する、という形を取っている。 例えば、班田収授法(6歳以上に農地を支給して課税もする制度)について学んでから、当時話題となっていた選挙権年齢の引き下げの話も絡めて、「班田収授法の年齢基準、何歳以上が妥当か?」を話し合う。平城京から平安京へ学習内容と現在をつなぐテーマで興味喚起し、「自分の考えを発信する力」を育む地理・歴史の遷都を学んでから、地理で学んだ立地論のことも絡めて、「日本の首都はどこにすべき?」を話し合う。 「地理も歴史も、興味のない生徒には、遠い地域や遠い昔の話でしかないんです。そこに現在の社会とのつながりを示すことで、『こうしたことは身近でも起こるんだ』『だったら学びたい』と生徒に感じてほしいと思っています」米沢工業高校 定時制 (山形・県立)教科の学びと安心安全な場で、考えを発信する力を養うどんな授業なのか1897年創立・1948年定時制設置/工業科・産業科/定時制の生徒数45人(男子29人・女子16人)/定時制の進路状況(2015年度実績)就職5人、その他2人学校データ髙橋英路先生教員歴9年。経済学部で地域経済学を専門に学んで社会科の教員免許を取得。初任校で出会った先輩に自分から学びに出かける姿勢を教わり、県外の研修やセミナーにも積極的に参加するようになった。大人しくて目立たない生徒など、「手がかからない」と思われやすい生徒の思いを汲み取ることを大事にしたいという。コミュニティボールの効果普段は話さない生徒も発言機会を得られる沈黙が続いても本人の意思表示を待てるグループで対話するときは、ボールを持っている人がしゃべり、話し終えたら、次に意見を聞きたい人にボールを渡すというのがルール。ボールの受け渡しで発言者がわかりやすく、全員にボールを一度は回すことで、普段は話さない子も発言の機会を得られる。ボールを渡された人は、話すことがなければ、他の人にパスしていい。これも大事なルールだ。逆に、緊張や混乱からすぐに言葉は出ないけれど話そうと思っているなら、ボールを持っていればいい。ボールを渡された生徒が沈黙すると、当初は周囲が先回りしてフォローし、結果的にその生徒の発言機会を奪うことがあった。髙橋先生が「パスしてもいいのだから、すぐ答えられないときも、ボールを持っているあいだは待ってあげようよ」と話し、そのルールが浸透するほど、全員がより安心して話せるようになった。12182016 OCT. Vol.414

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