キャリアガイダンスVol.414
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科目を中心に学ぶ地域ビジネス科がある。最も人数が多く多様な生徒の集まる総合コースに大きな教育の柱を立てるべく、06年より検討され10年からスタートした「やかげ学」は、旧商業高校と地域との強いつながりを引き継ぎ、生徒を地域に育ててもらおうという主旨で構想された。 当初から実習期間は1年間。地域に出すためにまず座学で学び、1年間の実習が終わると発表会に向けての振り返り・考察を行い、最後は2年間の総まとめという内容だ(下図)。 職場体験でもボランティアでもなく、継続して一つの職場に約30回、100時間通うことで得られる成長はなにか。構想段階で立てていた仮説がある(左図)。始めてみると生徒指導、進路指導、教科指導に役立つという仮説はすべて実証されたのみならず、予想以上の成果が生まれた。 「いろんな奇跡があるんです」と先生方は言う。「なぜここまでしてくれるのかと思うぐらい、地域の方々が生徒に愛情を注いでくれる。成長させるために業務内容を工夫したり、わざと失敗させたり」。その思いに応えるように生徒たちは責任感や自信、社会人としての力を培っていった。 老人福祉センターの「お達者教室」企画を任された生徒たちが自主的に何度もミーティングをする姿が見られた。介護職員を希望していた生徒が施設に通ううち、仕組みを整える行政職員になりたいと思うようになり公立大学に進学した。自分の情熱を伝えたい生徒が、小学校で字を丁寧に書くことや文字の大切さについて、得意の書道を生かして授業をした…80人いれば80通りの成長がある。 予想外の成果の一つに、生徒たちが自分のことだけでなく地域課題について考え、提案をするようになったことがある。行政、教育、福祉系への進学者も増えた。もう一つは「やかげ学」に触れた小学生が矢掛高校を志望するようになったことだ。大学卒業後、町内に戻って就職したり、小学校で実習した生徒が高卒で学校事務職員になるなど、地域内での教育の循環が起こり始めている。 これら生徒の成長を促す仕掛けは、実習外での教員の関わりや座学にある。礼儀作法、働くことの意味、座学の定着を促す定期考査、3年生から2年生への業務の引継ぎ、ディベート・ディスカッションや発表の機会。毎回の報告書提出時の面談では、目標に対する成果や、具体的な場面でどう考えどう行動したのかを問われる。 面談で「なぜ? どうして? いかに?」と問う教員との問答で、内省の力や論理力も育まれていく。12月に行われるやかげ学発表会で昨年、「僕はコミュニケーション能力が身に付いたかどうかはわからない、でも、コミュニケーションが大切だということはよくわかった」と深い内省を伝える生徒がいた。そして「次はどうする?」と徹底した内省が成長を生む問われてきた生徒の発表は、報告だけでなく考察や提案の含まれるものに変わってきた。 今では「矢高生がいなければ仕事が回らない」と言われるぐらい町の運営の一部となった「やかげ学」。先進的な取り組みには視察者が絶えず、地方創生における教育の役割に注目が集まる中、自治体と学校が一緒に来校することもある。そんな時、矢掛高校から伝えるのはこの信念だ。「地域課題解決のため、という発想が先にあってはいけません。学校の教育活動は生徒の成長のためにあるんです」。ダイナミックな地域連携が目をひくが、周囲の課題を自分の課題として捉え立ち向かう力は、一人ひとりと向き合う指導で育まれている。1901年創立/普通科、地域ビジネス科/生徒数423人(男子191人、女子232人)/進路状況(2015年度) 大学・短大67人うち国公立大25人、専門学校36人、就職26人、その他2人/ユネスコスコール加盟校左から高木潤先生(総務課長・地域連携係)、宮地伸幸先生(やかげ学主任)、濱田好宏先生(教務課長)、關戸章宏先生(教頭)■ 「やかげ学」構想段階での12の仮説■スケジュール生活指導に役立つ①服装、頭髪や言葉遣いなどの校則やマナーが、社会でなぜ重要かを実感できる。②やかげ学の時だけでなく学校生活全般でも、自然にそれらに注意を払うようになる。③地域から見られる意識が高まり、校外でのマナーが良くなり、地域からの信頼を厚くすることができる。④仕事に対する責任感が育つので、校内の清掃など諸活動への取組も変わる。⑤地域の方々に学ばせてもらうことで、感謝の気持ちや問題意識を持って地域貢献活動に参加するようになる。進路指導に役立つ⑥自分の進路と一致する施設に行った生徒は、100時間の実習によって専門的な体験と問題意識を得ることができる。⑦実習施設と進路が一致しなくても、普遍的な対人関係や問題解決の経験を通して進路への動機付けを強めることができる。⑧基本的な職業観が養われるので、総合的な学習の時間の内容を補強することになる。⑨はきはきと話したり、考えたことを正確に伝えるなど、基本的な対人関係の力が鍛えられるので、推薦AO入試などに役立つ。⑩指導者は推薦・AO入試の指導の際に、これらの能力を引き出す工夫が必要となる。教科指導に役立つ⑪社会で働くためには様々な知識が必要なことを感じ、教科学習、社会常識や言語能力育成の強い動機付けになる。⑫やかげ学で進路を達成しようとする意識が高まり、学習意欲が高まり、授業態度のさらなる向上が期待できる。2年生3年生4月座学(11回)やかげ学とは/マナー/町の行政/町の歴史と文化/中間考査/町の観光/町の農業/町の福祉/まとめ/施設選択の説明/期末考査実習(12回)5月6月7月自己紹介カード(2回)8月3年生から2年生への引継ぎ(3回)施設打ち合せ振り返り(6回)礼状書き等9月実習(13回)10月発表準備(11回)11月12月やかげ学発表会中間報告会準備/中間報告会1月実習(5回)2年間のまとめ(7回)2月3月512016 OCT. Vol.414

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