キャリアガイダンスVol.417
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 茨城県の常総市にある水海道西中学校は、南北20㎞という広範囲から生徒が通っている。そもそも公立中学は高校に比べて習熟度も志向も多様な場であるが、同校は地理的な学区の広さから、農業、工業、新興住宅地など多様な生活環境が存在し、生徒たちの家庭環境も多岐にわたっている。 「生活や家庭の環境が多様ということは、生徒たちのキャリアにも多様性が求められるということです。各々の生徒に対し、本人、教員、保護者、地域が期待するキャリアの方向が必ずしも一致しないということが多々起こります。例えば、学業が優秀な農家の家庭の生徒に対し、本人は進学校を希望していても、保護者は家業を継がせるために適した高校を希望するなどです。これまでの赴任校とは異なり、単に基礎学力の強化を目指せばよいわけではなく、生徒個別の事情に合った多様な力の育成が求められていることに気付かされました。こうした現実に直面したときに、生徒たちが将来どんな仕事についても必要となる『汎用的な力』を育成することが、多様な背景をもつ生徒の進路を預かる、公立中学の使命だと生活や家庭環境が異なれば進路もさまざまタフに生きられる「汎用的な力」を育む考えました」(山中久司校長) 山中校長は、多様な進路のベースとなる「汎用的な力」を育むための、カリキュラム・マネジメントを始めた。まず、学校の在り方をグランドデザインするために、村上春樹の『海辺のカフカ』から引用した「世界でいちばんタフな15歳になる。」という学校全体のコミュニケーション・ワードを設定した。「いちばん」を平仮名にしたのは、No・1ではなくオンリーワンの意味を込め、「タフ」とは知徳体が揃うことで、知恵と知識と優しさをもってほしいという想いからだ。 「本校の生徒は、地元に残って家業を継ぐ子もいれば、グローバルに活躍していく生徒もいるでしょう。いずれにしても変化の激しい時代で、今の15歳が社会に出るころに、世の中がどれだけ多様になっているかは誰にも想定すらできません。だから『タフ』でなければいけないのです」(山中校長) 目標とする生徒像を設定した後、彼らに必要となる各論の力を育成するためのプログラム作りを始めた。同校が実践しているキャリア教育の取り組みが図1で、2016年度の「第10回キャリア教育優良校文部科学大臣表彰」を受賞した。特徴的な取り組みのいくつかについて紹介する。 ひとつは「集団行動コンクール」。クラスごとに、隊列を作ったり体操を行う演技を競うものだ。一見すると、全体主義的な、多様性とはかけ離れたものにも見えるが、目的は真逆だ。多様な仲間で形成される集団の一員であることを生徒たちが意識し、仲間に支えられるなかで、自分がどう貢献すべきか1966年設立/生徒数452名(男子241名、女子211名)学校データ取材・文/長島佳子図1 水海道西中学校のキャリア教育の取り組みどんな進路を選んでも必要となる汎用力を育む多様な社会で必要な力を身体と言語活動で学ぶを自覚するための取り組みだ。 「少子化の時代に育った生徒たちは、意図的に集団という場を与えないと、集団体験で培われるはずの『人の気持ちや気配を読み取る力』が育ちません」(山中校長) 学年が始まってすぐの4月に毎年実施しているが、1年生の保護者からは「こんな真剣なわが子の表情を初めて見た」と非常に好評だという。多様な生徒が集まる中学校の場取り組み育成する力内容他校種や地域・産業界等との連携・協力の取り組み中1オリエンテーションキャンプ 人間関係形成・社会形成能力 中学校に入学して間もない時期に、協働して様々な活動をする中で、働いていくための基礎となるコミュニケーションスキルや他者の個性を理解する力を育てている。小中交流会 課題対応能力 生徒が主体となって小学生の体験入学を計画する取り組みである。手形アートの制作や人文字作りなど、小学生との協働作業を中学生が企画・運営することで、実行力を育てている。 職場体験学習 キャリアプランニング能力50の事業所から興味関心をもった職業を選び、3日間にわたって体験学習を行っている。実施に当たっては、3カ月前から事前学習を重ね、体験後はまとめを保護者向けに発表するなどの事後学習を行っている。独自の組織的・系統的な取り組み朝コミ(朝のコミュニケーションタイム)の実施 人間関係形成・社会形成能力の育成 生徒の思考力や表現力の向上や、さまざまな考えを受け入れながら自分の考えや価値観を深化させる取組。三人一組で行い、「何のために働くのか。」などのテーマについて意見交換を行っている。生徒会朝コミ委員会がテーマを設定し、水曜日朝の会前に実施している。海西版「知の技法」の活用 課題対応能力の育成 学び方や学び方のコツ・学ぶ楽しさを教師が手づくりで集約したものである。授業や集会時においても活用し、生徒の学習意欲向上につなげている。 Thousand Prize基礎学力テスト 自己理解・自己管理能力の育成 全ての生徒が見通しをもって意欲的に取り組めるよう、簡単で基礎的な問題を各教科毎に設定し、「やればできる」を全生徒に味わわせることを狙いとした取り組み。 学力向上カウンセリング 課題対応能力の育成 学期末における評価・評定を基に、各教科の担当教員と学習に関する個別面談を行う場で、年3回実施し、長期休業中や次学期に計画的に自らの課題を克服しようとする態度や意欲を養うことを狙いとしている。 集団行動コンクール 人間関係形成・社会形成能力の育成 集団で一つの演技を作り上げる活動を通して、集団の一員としての自覚を高め、相手を尊重する態度を育むことをねらいとした取り組み。182017 MAY Vol.417

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