キャリアガイダンスVol.417
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 発達障害を含めた障がいのある者とない者が共に学ぶインクルーシブ教育システムの構築に向け、国をあげた動きが活発化している。近年、中学校では通級による指導を受ける生徒の増加が著しい。高校でも通級に相当する学びの場を整備することを目指し、文科省は14年に「高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業」を開始。全国の高校19校が指定を受け、16年度までの3年間、障がいに応じた特別の指導や個々の能力・才能を伸ばす指導の研究に取り組んだ。その1校が、千葉県北東部を代表する進学校、県立佐原高校だ。 同校にも、以前からコミュニケーションに課題をもつ生徒は一定数いたという。しかし、「周囲の生徒の受容性が高いこともあってトラブルが起こることはなく、本人の学力や進学の面でも問題ない場合がほとんど」と根本 巖教頭。そのため、指定当初はモデル事業の必要性を実感していた教員は少なかったと思われる。しかし現在、進路指導主事の根本直美先生はこう考える。 「学校生活は問題なく過ごせても、社会に出てからが心配です。当たり前と自立活動が必要な生徒の支援に留まらず、すべての生徒の個性を伸ばす環境づくり多様な個性を認め合う場されることが苦手でも、ある面ではものすごい力をもっている生徒たちです。それをうまく引き出し、社会で生きやすくなるように成長を支援する必要を感じます」 特別支援学校から同校に赴任し、この事業の推進担当を務めた古山 勝先生は、通級による指導への期待をこう語る。 「発達障害は『個性』の1つ。さまざまな個性がマイナスではなくプラスになる方法はないだろうか。そうした特別支援教育の視点を入れることで、きっと高校はより豊かな教育環境に発展していくだろうと考えています」 同モデル事業指定校としての代表的な役割は、障がいに応じた特別の指導の方法を探ることだ。同校は教育課程の特例を適用して「自立活動」を設置(図1)。肢体不自由の生徒には「体育」の1単位分を利用し、身体の動きや車いす操作などの向上を図っている。また、発達障害の傾向がある生徒には、週1回7時間目に自己コントロールや自己・他者理解などのスキルに関する授業を実施している。いずれも自ら希望した生徒を対象にしており、各年度、全学年で2〜4人が受講した。 こうした取り組みをもって最終的に目指すのは、個々の能力・才能を伸ばす指導の充実だ。 「高校現場に求められているのは、単に障がいのある生徒にスポットを当てることではなく、生徒一人ひとりの状況に応じて、その能力・才能を最大限に伸ばすための教育を提供するという視点だととらえています」(古山先生) そうした考えで始めた、2つの取り組みを紹介したい。1つ目は中学校との連携だ。高校入試後の3月、入学候補者のいるほぼすべての中学校に管理職や学年主任と古山先生が出向いて、個々の生徒に関する情報を収集。「聴覚障害のため教室の右側の席へ」「コミュニケーション面でこう配慮を」など、入学時から必要な対応をとれるよう準備する。さらに、「調査書にあがっていないそれぞれの良さを引き出し、さらに伸ばしていきたい」(古山先生)と、個々の長所についても聞き、クラス編成や担任の生徒理解に役立てている。 2つ目は、障がいの有無にかかわらず希望者を対象にした、人間の行動に関する基礎的な知識や対人関係、コミュニケーション力の向上を目標に掲げる学校設定教科・科目「心理学」の設置だ。古山先生を含む2人の教員が担当し、学年横断で放課後に実施している取材・文/藤崎雅子図1 教育課程の特例による「自立活動」の授業対象生徒指導内容授業時間・単位肢体不自由の生徒「身体の動き」に関する内容・身体各部位の弛め・姿勢づくり・選択種目の基礎練習など週1時間・1単位※体育の時間のうち1時間を自立活動として実施発達障害(疑いを含む)等のある生徒「人間関係形成」等に関する内容・自己コントロール・スキルトレーニング・自己・他者理解など週1時間・1単位※選択教科として実施通級制度をにらんだモデル事業の取り組み障がいのある生徒だけでなくすべての生徒を対象に推進(3学年は選択教科に位置づけ履修)。 プログラムは同校オリジナルで、心理学の基礎知識の講義から、ペア学習やグループ演習など多彩な内容だ。例えば、赤ちゃんの映像を参考にアイコンタクトや第一印象の重要性について考えさせたり、バレンタインチョコの売り上げを伸ばす施策についてグループで企画書の作成に取り組んだりする。 当初予測した20人を大きく上回り、各年度、約60人の生徒が受講。人間関係の難しさを感じている生徒や、大学で心理学を学びたい生徒などさまざまな動機で参加した。授業から学び取るものもそれぞれだが、そんな学びが1900年設立/普通科・理数科/生徒数966人(男子520人・女子446人)/進路状況(2017年3月卒業者)大学273人・短大2人・専門学校13人・就職7人・その他27人★平成26年度「高等学校における個々の能力・才能を伸ばす特別支援教育モデル事業」指定校学校データ282017 MAY Vol.417

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