キャリアガイダンスVol.417
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し、その問題の構造を少しでも理解しようと努力すること。今のリソースでは解けなくても、解決に向けてみなで頑張ることはできます。今日よりも明日、明日よりも明後日と、少しでも理解を深めていくことで、いつか解決につながることを信じて。 かつての工業社会における価値は標準化でした。いかに完璧にコピーするかが問われたのです。一方、情報社会の価値は差異。他と違うものに価値があるわけです。この劇的な転換に伴って、産業構造や就業構造、働き方や学び方が急速に変化しているわけですが、まだ、そこに追いついているとは思えません。いまだに工業立国としての型や、そのベースにある農村共同体の流れから脱していないのが実情です。その点で、多様性について考えるとき、日本は欧米と比べて2周遅れているように思います。 では、欧米はどうかというと、潘基文前国連事務総長や、オバマ前大統領の最後の演説でも強調されていたように、移民・難民問題に頭を抱えています。なかでも、キリスト教文化圏に、いかにイスラム文化を受け入れるかという難題に直面しているわけです。2周遅れとは言いましたが、ここにきて日本のもつ宗教的な寛容さと文化的対応力が有利に働くと感じています。よく言われるように日本には、多神教的な世界観があり、あらゆる存在を認める複数性尊重の風土があります。和漢混交、和魂洋才など、外部のものを日本的文脈の中で再編集することにも長けています。 かつ、おもてなしの文化があり、客人に対して温かい。私のゼミの学生も、地方の方たちに本当によくしてもらっています。異なるものをしなやかに受け入れる社会の懐の深さが世界的に試されている時ですが、私は、日本、特に地域社会にはその深さがあると信じています。 ただし、気になるのは、「そんな余裕があるなら生産性をあげろ」「そんな暇があったら勉強しなさい」というように、生産性や効率性の呪縛に囚われている人たちの存在です。 なかでも由々しき問題は、おじいちゃん、おばあちゃんのお見舞いやお葬式よりも、塾を優先させる保護者がいること。英単語の20や30を覚えることよりも大切なことはいくらでもあります。最期の数カ月を一緒に過ごすことで、生と死について全身全霊で考える。その経験によって志が生まれ、素晴らしい医療関係者になるかもしれないのです。 保護者が少し近視眼的になり、教育現場にも強い影響を及ぼしている状況は改善されるべきです。一方で、かつてのような共同体が崩れ、保護者、特に母親が孤立している状況も考慮しないといけません。子育てについて的確に助言できる身寄りが少ないため、ますますセンシティブになっていく。そうした悪循環も同時に改善しなくてはなりません。 このように、社会にはさまざまな課題、難題があります。それをみなが協力することで少しずつ是正していく。オーストリア出身の社会思想家イリイチが提唱したコンビビアリティ(conviviality)という概念があります。簡単に言うと、みながワイワイ楽しく、生き生きとしている様子。それが私の理想です。それこそ、ロボットやAIの力も借りながら、障がいの有無や言語の壁なども取り払い、多様な人々が、個性を活かし、生き生きと生活できる社会です。欧米に2周遅れの日本がもつ宗教的・文化的寛容さ異なるものも受け入れる懐の深い社会になるために誰もが複数のアイデンティティをもっている342017 MAY Vol.417

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