キャリアガイダンスVol.431
16/66

学ぶ意義を生徒が実感できるために社会とつながる「リアルな学び」へ【座談会ファシリテーターの視点から】隠岐島前高校時代には教育魅力化プロジェクトを教員として現場で推進し、現在は島根大学で地域連携型教育や教育魅力化を専門分野として研究する中村准教授に、座談会でファシリテーターを務める中で見えてきた、学校が地域社会に開く意義についてご寄稿いただきました。 私たち大人は、より良い未来社会を創造したり、目の前に立ちはだかる問題を解決しながら生き抜いていくために、どのような力が必要なのかをいつ自覚したのでしょうか。恐らく多くの人は大人になって、実際に目の前にある状況を突破しなければならない場面になって初めて自覚したことと思います。そして「もっと勉強しておけば良かった」「もっと多様な経験を積んでくれば良かった」と後悔することもあります。この感覚を高校生の時に抱くことができれば、高校や大学時代の学びは異なったのではないでしょうか。自分が何を実現したいのか、そのためにどんな力が必要なのかは、実際に地域社会の文脈の中に身を置くことで考えることができます。 地域問題解決型の探究学習を行っていると、意欲的な生徒とそうでない生徒がいます。両者の差は何でしょうか。探究学習で取り組む分野と生徒の興味・関心が重なれば、生徒は意欲的に取り組むことができます。一方で、学校から与えられた探究のフィールドが狭く、生徒の知的好奇心が弱いと、両者は重なることができません。学校と社会を接続することの意義は、生徒が取り組むことができる学びのフィールドを広げることです(図参照)。  同時に、このことは生徒の知的好奇心を育むことにも寄与します。多様な社会文化体験を積み、丁寧に振り返りをすれば、自分が大切にしたい価値観に気づいたり、自分が夢中になれるものを自覚できるようになります。 最近、高校教育の世界でも「真オーセンティック正の学び」という言葉が広がっています。「真正の学び」の要素は3つあり、①構成的な知識習得、②鍛錬された探究、③日常や社会とつながるリアルな学び(学びの学校外での価値)です※1。この中で③のリアルな学びに焦点をあてるなら、地域社会をフィールドにして学ぶことの価値は、社会に直接的に接続された学びを経験することであり、「何のために学んでいるのか」を生徒自身が実感できることです。 高校生はどこか今住んでいる地域に対して繋がっている感覚が欠けていて、地域の問題にリアリティーを感じにくくなっているのかもしれません。生徒が地域の人と関わり、過ごす中で地域と自分の繋がりを取り戻すことができたとき、生徒は地域の問題に当事者意識をもてるようになります。 学校が地域社会と連携して学びのフィールドをつくり上げたとき、そこには3つの教育効果が表れるのではないかと思います。 1つ目はコンピテンシーの育成です。多くの研究の中で言われている通り、学びは状況や文脈に依存しており、他の場面に簡単には転移しません。数学などで論理的思考力を培ったとしても、日常生活で発揮されるかどうかは別問題です。人間関係形成力について教室で論理的に教えられていたとしても、実際に険悪な相手を目の前にしたら壊れた人間関係を修復なかむら・さとし●前島根県立隠岐島前高校教諭。2013年度から同校の教育魅力化プロジェクトに関わる。キャリア教育主任として体験型キャリア教育の全体を企画・運営、総合的な探究の時間「夢探究」や「地域学」などの授業を担当。文部科学省「2019年度地域との協働による高等学校教育改革推進事業 企画評価会議 地域魅力化型企画評価部会」協力者。2018年4月より現職。『地域協働による高校魅力化ガイド~社会に開かれた教育課程をつくる~』共著 岩波書店(2019年6月)島根大学教職大学院 准教授中村怜詞社会とつながる「真正の学び」が学びの価値を実感させる学びを地域社会に開くことで期待できる3つの教育効果162020 FEB. Vol.431

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る