キャリアガイダンスVol.431
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できるかはわかりません。望ましいと思われる行動特性をその場その場で発揮できるようになるためには、生々しい現実の中でその力を発揮できる練習をし続けることが重要になります。 2つ目は社会関係資本の蓄積です。大阪大学の志水宏吉先生の研究の中で、経済資本や文化資本だけでなく、社会関係資本(豊かな人間関係)も学力との相関があることが明らかにされました※2。学校には多様な生徒が集まっています。経済的に恵まれていなかったり、家に本が少なかったりと、いつの間にか自尊心を傷つけられていたり、知的好奇心を育まれにくい環境で育ってきた人もいます。そのような生徒たちにとって、友人と協働し、大人と対話する中で形成していく人間関係は、重要な資本であり、彼らの心に前に進んでいく力を与えます。 3つ目は、バランスの取れた人格形成です。生徒は目の前の相手によって顔を使い分けます。友達に見せる顔、先生に見せる顔、親に見せる顔、どれも異なっていてどれも本当の顔です。人は自分ひとりで自己を形成することができません。他者と関わり、自分の行動を意味づけられる中で自己の輪郭が縁どられていきます。多様な人と関わり、多様な顔を表に出すことができた生徒は、安定した自己を形成することができます。反対に、非常に限られた人間関係の中で育った生徒は、特定の顔しか表に出すことができず、意味づけられる自己が偏るために、不安定な存在になります※3。地域の自治会や子ども会など、地域社会の中で多様な人と関わる機会が失われている現在では、教育活動の中で多様な他者と関わる機会があること自体に価値があるのです。 では、これからの学校に求められる学びとは? 大きく3つあります。①横断的な学び、②個別化の推進、③生徒を子ども扱いしないこと、です。これらのうち横断的な学びや個別化の推進の重要性は多くのメディアで取り上げられているので割愛します。3つ目の「生徒を子ども扱いしない」で大切なことは「意思決定のプロセスに生徒が関わる」ということと、「信じて任せる」ということです。自分で考えて決めたことには当事者意識が伴います。生徒たちが自分の人生のハンドルを自分が握っていることを自覚するためには、自分で決めて、自分で行動する経験が欠かせません。そして日常的に自分で考えて判断して行動する機会を生徒がもつためには、教師が物事を決めるプロセスを開くか、手放す必要があります。例えば当たり前に使われているチャイムなども、鳴らすのかどうかから生徒たちと一緒に考え、生徒たちに決定権を委ねても良いのではないでしょうか。 私は高校生と大人で、能力に差はないと思っています。大人の方が上手にできることが多いのは、何度も失敗しながらやってきたからです。ICTも思考ツールも、最初から上手に使いこなせる人はいません。使っているうちにできるようになっていくだけのことです。「私たち大人でも難しいことが生徒にできるのだろうか」と考えずに、彼らが自由に挑戦できる環境を用意してあげることが我々大人の役割です。大人が使ったことがないからという理由だけで及び腰になる必要はありません。一緒に学びながらできることを増やしていけば良いのです。学び続ける大人の姿は、高校生にとって最高のロールモデルになります。 今回の座談会では「リアルな学び」というキーワードが何度も出ました。「社会に開かれた教育課程」という概念は我々の教育経験の中にはほとんどありません。そのため、最初から良いものを創ることは簡単ではありません。「失敗バンザイ」の気持ちが大切です。大人も経験から学んでいくのです。創り上げる過程で経験できる探究的な学びを一緒に楽しみましょう!高校生にとって最高のロールモデルは学び続ける大人の姿生徒の主体的な活動にはフィールドの充実と生徒の当事者意識や興味・関心との重なりが重要関わる人を通して問題の当事者となる取り組むフィールドの広さ生徒の当事者性興味・関心探究のフィールドを広げ、生徒の主体性を育む取り組むフィールドの広さ生徒の当事者性興味・関心地域社会の問題親しい地域住民 生徒※1)参考文献 フレッド・M・ニューマン『真正の学び/学力』渡部竜也、堀田諭訳 春風社※2)参考文献 志水宏吉『「つながり格差」が学力格差を生む』 亜紀書房 ※3)参考文献 肥後功一『通じ合うことの心理臨床: 保育・教育のための臨床コミュニケーション論』 同成社地域を巻き込み社会とつながる学びへ高校が地域社会と連携・協働する意義172020 FEB. Vol.431

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