キャリアガイダンスVol.431
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クレペリン検査の結果次第で不合格になる企業もあり、その対策の意味合いもあるが、最大の目的は生徒の苦手なことやネガティブな傾向を発見することだ。「例えばクレペリン検査で怠慢な傾向が見えてきた生徒には、毎日コツコツと続ける必要のある役割を与えるなどして、就職試験に不利になる要素を克服できるよう日常からサポートしている」と山下先生は言う。 同校では進学指導にも力を入れており、就職指導と同様、進学先とのミスマッチ防止に努めている。自分は何に興味・関心があるのか、入学後に何がしたいのか、進学先の学校を卒業した後にどのようなかたちで社会に貢献したいのかなどについて、「生徒と教員とが納得いくまで問答を繰り返し、進学先への志望理由を掘り下げている」という。AO入試や推薦入試での受験が中心で、2019年度は早くも進学希望者82名中71名が合格を決めている(2019年12月10日時点)。また、近年では国立大学をはじめ4年制大学への進学者も増えている。 今後、大学入試においてポートフォリオの必要性が高まることを受け、同校では昨年度からスケジュール手帳の活用を始めた。現在は1年生と2年生に配布し、日々の学習や活動の計画・記録を記させている。学校行事などへの取組や取得した資格についての記録を書き残し、 こうした進路指導が功を奏し、例年、ほとんど(95%前後)の生徒が第1志望の企業に合格する。その一方で、学年に数名は不合格になってしまう生徒もいる。そんなとき山下先生は、企業の採用担当者に「どこがダメだったか」を可能な限りヒアリングしているという。 「落ちてしまう生徒に共通しているのが、自分のことを表現することが苦手な、いわゆるおとなしい生徒です。あらかじめ準備した志望動機は語れても、少し突っ込んだ質問をされると答えられなかったり、質問とはちぐはぐな答えを返してしまったりする。面接で試される対話力などの人間性は、にわか仕込みでは通用しません。不得手なことや性質は、1年次から時間をかけて少しずつ克服していく必要があるのです」 生徒の性格や傾向を知るため、同校では適性検査の一つ「クレペリン検査」を1年次の1学期に全員に受験させている。振り返ることで内省を促す。ポートフォリオ作成時や採用面接対策時に役立てることに加え、手帳を使ってPDCAサイクルを回すことで自己管理力を身につけることも導入目的の一つだ。 「ものの開発やものづくりには、自分で考え行動して振り返り、改善していく力が不可欠です。そうした力を身につけた技術者、社会人になってほしいという思いから、就職希望者も含めて全員で取り組んでいます。生徒にアンケートをとったところ、忘れ物が減った、学校行事に向けて計画的に準備ができるようになったという声が多数ありました。来年度からは全学年が使うことになるので、手帳活用の強化週間を設けるなど学校全体で注力していきたいと考えています」 ミスマッチが起こらないよう配慮しながら、生徒の主体的な進路選択を支えてきた鹿児島工業高校。同校が進路指導のモットーとして掲げる「夢実現」の実践が、高い就職率、合格率につながっている。手帳を使ってPDCAを回し、自己管理力を身につける 仕事や職場について実際に見聞きする機会が多くあることで、「生徒たちは仕事というものをより身近に感じ、自分事として現実味をもって捉えられるようになってきている」と、山下先生は変化を感じている。一方で、「そうではない生徒がまだ存在するのも事実。今後もミスマッチをなくす取組を継続していく必要がある」と言う。そのための具体策として山下先生は、「同窓会のネットワークなどを活かし、県内で生徒が訪れられる産業現場をさらに増やしていきたい。また、卒業生がよく学校に顔を出してくれるので、生徒と引き合わせるなど接点をもたせて話を聞く機会をより増やしていきたい」と述べる。今後は手帳やキャリア・パスポートの活用を進め、大学入試改革も視野に入れつつ、進路指導をさらにブラッシュアップしていく予定だ。現場を知る機会を拡充し、生徒の意識向上を図る週ごとの目標とto doを書き出し、毎日いつ・何をやったかと1日の振り返りを記入。さらに、「起床・勉強開始・就寝」の時刻を記録することで、生活リズムも管理できる。校内で開催される鹿児島県商工労働水産部主催の「工業系高校生のための県内企業説明会」には40社余りが出展。2年生とその保護者が対象で、就職希望者の多くが参加する。382020 FEB. Vol.431

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