キャリアガイダンスVol.433
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 昨年度までにGoogleの研修受講、C-Learningの導入などを実施し、一部の授業や行事の振り返りにおいてICTツールを使い始めていた西湘高校。環境は整いつつあったものの、休校前の時点では活用に積極的なのは一部の教員に限られていた。ICT導入を牽引してきた木村先生に話を聞いた。 3月中旬、同校では休校前から予定されていた教員向けのICT研修会を実施した。これまでになく多くの教員が参加したことで、「リテラシーが高まり、その後も比較的スムーズにオンライン対応ができた」と言う。新学期が始まると、全生徒にGoogle Classroomのアカウントが発行されたが、使うツールは統一せず各教員の判断に任せた。各自が最もやりやすい方法を選択することで、取組を前進させることを優先したためだ。当初はアナログで課題を出していた教員もいたが、「職員室全体が、やらなきゃ、やろう、という雰囲気になり活気が生まれ、研修会に参加しなかった先生たちもICTツールを意欲的に使い始めた」と振り返る。 学校全体の機運が上がるなか、木村先生が3年生の担任として始めたのが、Zoomを使ったオンラインホームルームだ。「クラス替えをしたばかりで、生徒たちは仲間づくりの面でも勉強面でも不安だろうし、生活リズムの乱れも心配だった」と言う。毎朝9時から行い、参加は任意としているが、多いときには20人ほどが参加する。先生が「昨日できたこと、今日取り組むこと」などのお題をフリップで出すと、生徒が次々と発言する。カメラオフで参加する生徒も少なくないが、「顔は見えなくても、つながっているという安心感や、みんなはこんなことやってるんだ、自分もがんばらなきゃ、という刺激があることに意味がある」と考える。9時を目指して起床するという生徒も多数いて、生活リズムを整える役目も果たしている。一方、メンバーが固定しがちなため、5月の連休明けからは週1回、13時半という参加しやすい時間帯に実施し、クラス全員に参加を呼びかけている。さらに、オンラインの個人面談も実施。3年進級時に理系に転じた生徒などを優先しながら、勉強の進捗状況や進路について時間をかけて話をしている。 「自分がファーストペンギンになれば他の先生たちも取り組みやすいだろうと思い、率先して動いている。管理職も応援してくれるのでやりやすいし、若い先生も追随してくれている」と話す木村先生。C-LearningやGoogle Classroomの閲覧範囲は学年単位にしており、「教員同士、お互いの指導が見えるようになり、参考にしたり刺激や学び合いが生まれたりしたのは嬉しい副産物」と言う。 一方、見えてきた課題もある。オンラインやICTを使ってできることの限界だ。「大学に受かるための勉強、問題を解くための学習はできるが、対話的・主体的な深い学びはやはり難しい」と感じている。科目の特性にもよるが、例えば国語の現代文などはどうすればいいかと相談を受けたこともある。木村先生の答えは、「何をするかではなく、つけたい力から逆設計する」というものだった。「できることに限りがあるなかで、いかに学びを止めないか、自分も含めてみんなもがき苦しみながら試行錯誤している」と、教員の姿を語る。 困難を感じながらも「授業の在り方や価値が問われるこの状況を、チャンスと捉えている」と話す木村先生。オンライン授業では、単元の目標を明示したり、問いを工夫したり、授業の最後に振り返りの時間を設けたりすることで、どのような力がついたかを生徒自身が意識できるよう工夫しているが、「本当に生徒に届いているのだろうか」という疑問が常に付きまとうと言う。学校再開後もこの課題に向き合いながら、「リアルかオンラインかという手段に捉われず、生徒の興味・関心を引き出す場づくりをしていきたい」と語った。生徒の学びを支える実践事例レポート緊急事態のなかで全国のすべての学校で、これまでにないチャレンジが行われたこの数カ月間。「授業」「特活」「探究」「部活」…さまざまな取組における先生方の工夫や試行錯誤を取材させていただき、そこから見えてきたものをレポートします!総括教諭の木村 剛先生使うツールは教員に任せ、取組を進めることを優先するオンラインとリアルの特性を見極め、授業を再構築する西湘高校(神奈川・県立)学びの土台は安心感。オンラインHRや面談で教員と生徒、生徒同士の〝つながり〞を大切にReport1取材・文/笹原風花1957年設立/普通科/生徒数934人(男子449人・女子485人)/プログラミング教育研究推進校に指定(平成31年度から3年間)学校データ午後実施のオンラインホームルームには、クラスの大多数が参加。朝に行うときよりもカメラオンの生徒が多く、たくさんの笑顔が見られた。142020 JUL. Vol.433

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