キャリアガイダンスVol.433
27/64

もあるでしょう。特に今は、コロナが自分のベースや興味関心に何かしらの影響を与えているでしょうから、そこを切り口にするのもありだと思います。 学校内での探究にも工夫が求められます。例えば「整理・分析」では、これまで生徒同士での対話を重視してきましたが、それが難しい状況です。とはいえ、クラスサイズを小さくしたうえで、先生を中心に皆が前を向いた状態でも話し合いは成り立つと思います。一人ひとりがもちよった情報を「粒」と捉えたとき、クラス全体で共有すれば、ある程度の数になります。それぞれの「粒」がどういう関係性になっているかを黒板上で見える化し、全員で整理・分析を進めていくのです。 一方、個人で整理・分析をするときの処理スペースはノート。ここでも同様、自分がもつ情報を見える化し構造化していきます。その際、役立つのがベン図やピラミッドチャートといった思考ツール。「この図を使えば比較がわかりやすくなるし、このチャートを使えば雑多な情報がまとまるぞ」と説明すれば、高校生は使いこなしてくれるはず。先生方の板書やノート指導の力が問われることになるでしょう。 大切なのは、生徒がもつ既有の知識や、教師が供給する新たな知識を「粒」と捉え、並び替えたりカテゴライズしたりしながら「塊」にしていく発想。より精密で強固な知識とするのです。 3密を避ける状況において、音声言語に替わって重視すべきは「文字言語」だと思います。音声は、広がりやすい一方、文字は自覚しやすく、安定性があります。書くことを意識した指導ができれば、今まで以上に知識の構造化や概念化ができ、深い学びが生まれるのではと期待しています。 今回の学習指導要領ではカリキュラム・マネジメントの重要性が強調され、その中核に総合的な探究の時間が位置づけられていますが、今の状況こそ、カリマネが求められるのではないでしょうか。というのも、教育課程とは学習指導要領で示された学習の「内容」と「時間」で編成されるわけですが、今回、時間が圧縮されたことで、内容をどう配列し、どこに重きをかけるかを考えざるを得ません。これまで以上に意図的である必要があるのです。加えて、第2波・第3波を予見して、カリキュラムを柔軟に組み替えられるような心積りも必要になります。 この数カ月間、多くの高校生が〝本気〞になって考え、いろいろなつながりを感じることで、学習者として大きく成長していると同時に、社会の力にもなっていると思います。高校の探究は、小・中学校から続く探究的な学習の集大成。未来社会を創造する主体=Agencyを育てる意味において、カリキュラム上、探究活動が担保されている意味は大きいと思うのです。 今回ほど、学校教育が社会でクローズアップされたことはありません。休校当初は「休めてラッキー」と思ったとしても、時間の経過とともに、「早く学校に行きたい。友達と勉強したい」と語る生徒が増えてきたことはニュースから伝わってきましたし、私自身、休校中につながりをもち続けたゼミ生からも感じました。共に学びを深めていくという学校教育の価値が再評価されたことは、大変な日常が続くなかでの希望です。同時に、今後、若者がポストコロナ社会をつくっていくうえで、学校教育のもつ責任の重さを再認識する必要があると感じています。たむら・まなぶ●1962年生まれ。新潟大学教育学部卒業後、上越市立大手町小学校教員、上越教育大学附属小学校教員、新潟県柏崎市教育委員会指導主事などを経て、2005年に文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官(国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官を併任)。15年文部科学省初等中等教育局視学官として新学習指導要領作成に携わる。17年4月より國學院大學人間開発学部初等教育学科 教授。右往左往する大人がいる一方行動を起こす専門家たちの姿を見て高校生は何を感じたかカリキュラム・マネジメントの核としての総合的な探究の時間〝3密〞回避下での探究でカギとなるのが「文字言語」生徒たちは何を思い、教師はどう動いた? そして、見えてきたもの授業、探究、地域連携… 学びを進化させる272020 JUL. Vol.433

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る