キャリアガイダンスVol.433
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472020 JUL. Vol.433図2 問題解決のための思考過程『新装版社会的学習理論の新展開』祐宗省三・原野広太郎・柏木惠子・春木豊 編集金子書房バンデューラの研究を、その歴史的な変化とともに概説した一冊。日本における社会的学習理論の研究にも触れられている。『民主主義と教育 上・下』ジョン・デューイ著 松野安男訳岩波文庫1915年に書かれた教育論だが、現在の探究的で主体的な学びにも通じる概念が説かれている。①不確定な状況④解決可能な仮説を立てる②問題の明確化⑤多様な仮説の中から適切な仮説を選び実行する③問題解決に必要な情報の収集⑥実行した仮説を検証・評価し、確定した状況へ進路を見定めにくい生徒のためのキャリア理論と実践特別企画せながら立て、実際に進路決定していく「多様な仮説の中から適切な仮説を選び実行する」段階を経て、不確定な状況から「確定した状況」に変容させていくのです。 これらの順番は、ときに入れ替わりがあったり、同時進行で起こったり、また、「確定した状況」も絶対のものではなく、後に続く課題によって修正・変化させていくものになるとデューイは論じます。 また、デューイは、「教育は経験を絶え間なく再組織ないし改造することである」と説きました。そして、その「経験」は教室の中だけに閉じられたものではなく、日常生活や社会環境のなかで経験できるさまざまな事象との関連であると言います。特に、社会が大きく変化するなかでの、他者との関係やコミュニケーション、職業の変化との関連を、デューイは教育的視点から重視しました。それはまさに、バンデューラの社会的学習理論における、個人と行動、環境との相互作用にも通じる概念ではないでしょうか。 さらにデューイは、教育とは経験の意味を増加させ、その後の経験の進路を方向づける能力を高めるものであ 100年以上前に生まれたアメリカの思想家ジョン・デューイ。教育哲学や教育史でお馴染みです。デューイの実験学校では、実社会や実生活と切り離された「死んだ知識」ではなく、社会的に意味のある活動を中心に据えた教育を追求するという点で、問題解決型学習として現在のPBLや「探究」などにつながっています。 デューイが提唱した問題解決のための思考過程(図2)は、厳しい状況に直面している生徒との相談にも活かすこるとしました。それは、ケース1のような自己の経験を振り返り新たな意味を見いだす生徒にとっての、理論的背景としても参考になるといえるでしょう。とができます。 例えば、ケース2のような生徒の場合、まずは家庭の経済的な問題や家庭の事情、保育士になる夢など、対立する「不確定な状況」があります。次に、その問題の実質は何なのか、単に表面に出ている状況だけでなく、生徒自身の保育士になる夢への自信のなさや、親子関係の課題など、さまざまに考えられる「問題の明確化」があり、それらの「問題解決に必要な情報の収集」として、経済的な支援情報やキャリアプランの作成などを通じて進路情報の収集にあたります。そして、「解決可能な仮説」を現実とすり合わ不確定な状況から確定した状況へ移行させる経験の意味を振り返り変化し続け成長するジョン・デューイ問題解決のための思考過程

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