キャリアガイダンスVol.433
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●安宅和人『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』 NewsPics 「批判創造思考」の教授法を考えるにあたり、バックキャスティング(backcasting)という発想法を知っておきましょう。この方法は、1990年にウォータールー大学のジョン・B・ロビンソンによって示されたのが始まりと言われています。望ましい未来の姿(目標となる状態)から逆算して、到達するための施策を考えます。その目標は遠大すぎたり達成不可能なものとなりがちですが、それを乗り越える方法を模索します。 なお、逆に現状から改善策を積み上げる考え方をフォアキャスティング(forecasting)といいます。現在もっている資源をもとにしながら、達成しやすい目標を設定し、実行します。私は、どちらが正しいというものでもなく、両者ともに必要だという立場です。大事なのは、その両者の差分に気付くことです。思考の流れを示すと、おおよそ以下のようになると想定できます。①持続可能かつ理想的な未来を定義する②ある事象・現象が起こる文脈をたどる③ ②の改善策の積み重ねによって、どういう未来が描けるのかを想定する(フォアキャスティング) ④ ③では理想の未来に近づけないことを理解する⑤ ①と③の差分をどう埋めるのかを考える。現在に至る文脈をクリティカルに眺め、その理想に近づくための方法を考える(バックキャスティング) 「批判創造思考」を身に付けるための授業では、新しいことをどう試行するのかを考えることが求められます。その一つの道具として、私はカナダ出身の英文学者・文明批評家のマーシャル・マクルーハン(1911-1980)が提唱した「テトラッド」を参考にすることがあります。彼はメディア研究で有名で、『メディアの法則』のなかでテトラッドが紹介されています。 これは、新しい何かを試行するために用いる4つの問いの組を示したものです。 「批判創造思考」は、第1回目の記事において〝これまでの知をクリティカルに捉え、統合し、新たな知を創造する思考〞と私なりにまとめて示しましたが、2001年にサミュエル・ブルームの弟子筋であるアンダーソンやクラソールらが発表した改訂版タキソノミー(教育目標の分類学)では、認知過程の次元を、1 記憶、2 理解、3 応用、4 分析、5 評価、6 創造と分類しています。私の言う「批判創造思考」は「評価」「創造」にあたります。 創造するためには、これまでつくり上げてきたもの(過去)を振り返ることが欠かせません。これからつくり上げるもの(未来)を想定した評価軸に沿ってこれまでの出来事や作品(過去)を批評し、それが適切だったのかを判断します。つまり、「評価」で批判的思考を発動するということです。そのうえで、その評価に従って企画・制作をし、新たなモノやコトをつくり上げます。これを「創造」と呼び、改訂版タキソノミーの最上位として位置付けられています。 なお、未来のあるべき姿を考えるにあたり、参考になる書籍を3冊紹介しますので、ぜひ目を通してみてください。また、3名とも世界的なカンファレンスであるTEDにも登壇し、動画が配信されていますので、動画視聴もよいですね。●ハンス・ロスリング『FACTFULNESS』 日経BP●ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』 河出書房新社バックキャスティングとフォアキャスティング未来を変える原動力となる「反転」思考神﨑氏は小論文で設問に対する「意見」「理由(根拠)」を示すだけでなく、「これからどうすべきか」という未来に向けた「提案」まで求めます。今回は提案に必要な「ほんとうにその在り方でよかったのか」と批判的に捉え、問題や課題を克服するための「批判創造思考」を身に付ける授業を紹介します。持続可能かつ理想的な未来改善策の積み重ねによる未来事象が起こる文脈・原因バックキャスティングフォアキャスティング差があることを理解する現在の姿15234522020 JUL. Vol.433

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