キャリアガイダンスVol.433
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るなど、生徒自身が成長の手応えを感じられるようにもなっていた。造船・海運をテーマとした号では、働く人たちのカッコよさに痺れた生徒が描いた「船男子」のイラストが表紙に採用されるなど、徐々に生徒の参画度を高めている。 制作にあたっては、事前に3回のワークショップが行われている(下図)。初回は商工会から制作意図やテーマの説明がなされ、自分たちの責務を覚悟する。広島商船高専の学生とのアイスブレイクを経て、インタビューシートを作成するまで約2時間。2回目はプロから写真撮影を教えてもらい、3回目は先生を相手にインタビューの練習だ。高専には他県から、職業意識を明確にもって入学している学生も多く、違いを乗り越えて会話することで刺激を受け、コミュニケーション力がつくと感じている生徒も多い。 5号目制作の年に赴任した兼かね田だ侑ゆう也や教諭は「今は取材時の進行をすべて生徒が担うようになりました。普段とは違うグループで、今回はリーダーっぽくがんばろうとか、いろいろな役割に挑戦してほしい。カメラマン役を設定したのもよくて、話すことが苦手でも、そのうち自分から質問したり、次はインタビュアーをやってみようという子がいます。引っ込み思案な生徒ほど成長が大きいですね」と言う。本番の取材は海星生2人、高専生2人と引率者で相手先を訪問するが、メンバーが固定されず、インタビュアーも偏らないように配慮をしているそう。 発行を重ねるうちに、一部の生徒だけの成長機会とするのではなく、授業の教材としても使われるようになった。例えば国語表現の7コマを使って行われたのは、取材メモを元に文章を書き、写真を選び、キャッチコピーをつけるという授業。グループで制作し、投票によって選ばれた記事が冊子に採用された。また、総合的な探究の時間に地域の人を招いて話を聞く際には、生徒が仕事図鑑からゲストを選んでいる。自分たちが興味をもった人が来てくれるので、聞く姿勢が大きく変わる。 影響を受けるのは生徒だけではない。「教員は、一般社会で働いている人と話す機会も地域の人と知り合う機会も少ないものです。ですが、取材の引率をすれば地域の人に覚えてもらえますし、授業でやりたいことがあったときに、あの人なら手伝ってくれるかもとヒントになる。教員としてもすごくプラスになっています」と兼田先生。一方で地域の人にとっても、自分の話を一生懸命聞いてくれた高校生は応援したくなる。取材をきっかけに「弟子入り」して魚の捌き方を教えてもらうようになった生徒や、福祉事業所でアルバイトを始め、そのまま就職した生徒もいるそうだ。 今では制作主体である商工会も、高校教職員や高校生もまちづくりの一員であるという意識をもつようになった。今年着任したばかりの大久保信行校長は「行政や商工会の応援姿勢に驚き、また感動しました。生徒を地域に出すことで失敗もあったでしょうが、生徒が変わる姿を見て先生方にも地域の方にも喜びがあったのだろうと思います。生徒には地域でたくさんの経験をしてもらいたいし、褒めたり叱ったりしてもらいながら、共に生徒を育てていきたいですね」と言う。 仕事図鑑に限らず、地域と関わることの多い大崎海星高校だが、コーディネーターの円光氏は「地元郵便局から消印のデザインを依頼された例のように〝これを一緒にやろう〞と地域から声が上がり、一緒に学びをつくっていく機会が今後さらに増えるといいと思うんです。総探だけでなく教科でもそんな協働が実現することを目指したいですね」と言う。地域との協働による高校魅力化のトップランナーは、これからどんな進化を見せてくれるのだろうか。さまざまな役割を体験し引っ込み思案な生徒ほど成長■ 『島の仕事図鑑』準備から活用までの流れ大崎海星高校の魅力化プロジェクト5年間の軌跡は書籍『教育の島発 高校魅力化&島の仕事図鑑―地域とつくるこれからの高校教育―(仮)』として今夏、学事出版からの発行が予定されている。次号の手本としてWSで活用島を知る、働くを考える教材に  大崎上島未来会議  移住施策・島のPR  島内全戸への配布活用納品  ←最後の振り返り   ←完成報告会実施完成・報告取材をする  ←振り返り取材①オリエンテーション 商工会からの趣旨説明 仲間づくり インタビューシートづくり  ←②写真撮影講習  ←③インタビュー練習 ワークショップ(WS)教職員の担当チームをつくる  ←チームで話し合う(冊子のテーマを決めるなど)  ←取材先を決める  ←参加生徒を募る準備記事を書く  ←プロにデザインを依頼  ←取材先確認記事制作【総探】読んで話を聞きたい人を選び学校に招く生徒が自身の学びを織り交ぜて報告その日のうちに気づきを言語化会場は2校を交互に教員が練習台となり人生を問われる担任を通じ全校生徒に呼びかけるが最後は一本釣り【国語】取材メモを元に記事を作成(商工会)572020 JUL. Vol.433

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