キャリアガイダンスVol.435
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と、授業をはじめとした教育活動がうまく回らなくなることがあります。 教育的日常をリフレクションすることで、自分の思考の偏りに気づくことができ、そして、一人ひとりの生徒との良い関係性を構築するにはどう行動すればよいのかを考えることができるようになります。 また、教室の状況は生徒の様子やさまざまな環境によって、刻々と変化するものです。そのときの状況においてその場で適切な状況判断ができることを「教育的タクト」と呼び、教員にとって大切な力です。この「教育的タクト」を身につけるためにもリフレクションが有効な手助けとなると考えられています。 教師教育学のコルトハーヘンが「氷山モデル」(10ページ・図2)で示しているように、目に見えている行為の下には、思考や感情、さらに望みが隠されています。リフレクションは、感情や望みまで掘り下げることで、本質的な気づきを得て、より良い次の行為を選択できるようにする営みです。しかし、自分の感情や望みと向き合うことは決して簡単なことではなく、特に教員は自分の感情にアクセスすることが苦手な傾向にあると言われています。「教員は教育現場で感情をもつべきではない」と考えているからです。そのため、 新しい学習指導要領では「学びに向かう力」や「学び続ける」姿勢の大切さが謳われています。教員には教科の専門性だけでなく、生徒の学びへの意欲を引き出し、主体的で継続的な学びを促していくことが求められています。社会が急激に変化するなか、教員が「教え続ける」よりも生徒が「学び続ける」姿勢を身につけていけるように、教員の役割も変わってきています。教員自身に変革と成長が求められている今、リフレクションは自身の経験を振り返り、これからの行動を考えるうえで不可欠なプロセスだと考えています。 教員である私たちには、本人も無意識の思考の癖があります。生徒たちに規範的なことを指導する立場であることもあり、「〜するべき」「〜であるべき」といった思考に囚われがちになることです。現象学的には「前理解」と言いますが、先入観のようなものです。 ほとんどの場合、自身が先入観をもっていることにまったく気づかずに授業をしたり、生徒と接しています。そうした思考の癖が、生徒との関係性を難しくしていることが往々にしてあるのです。一部の生徒とはうまくやれるけれど、他の生徒とは良い関係性が築けないといった現象です。するむらい・なおこ●京都大学大学院教育学研究科博士後期課程満期退学。修士(教育学)。専門は、教師教育学(教師、保育者の養成と現職研修)、教育哲学。主な共著書『リフレクション入門』、『ポジティブ&リフレクティブな子どもを育てる授業づくり』、寄稿『リフレクション大全』、論文「教師教育における『省察』の意義の再検討̶教師の専門性としての教育的タクトを身につけるために̶」ほか多数。一般社団法人学び続ける教育者のための協会(REFLECT)理事。京都女子大学 発達教育学部村井尚子教授教科の専門性以外に教員が身につけるべき力教員の自己肯定感を高め思考と心を解きほぐす「学びに向かう力」は生徒だけでなく、すべての社会人にとって成長の源となる力でもあり、それは教員にも求められていることだと思います。教員の成長にとってリフレクションはどのような利点があるのか、どのように実施すればよいか。教員同士で取り組める具体例について、大学で教師教育学を研究し、リフレクションの普及に努める「学び続ける教育者のための協会(REFLECT)」の理事である村井尚子先生にお話を伺いました。本質的な気づきなくして新たな行動には結びつかない取材・文/長島佳子 撮影/舟田サトシ302020 DEC. Vol.435

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