キャリアガイダンスVol.437
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「明あす日を創る」を開校の精神に掲げる北海道登別明日中等教育学校は、従来のグローバル課題をテーマとした探究活動を発展させ、2019年度より、地域との協働による新たな課題探究を実施している。「目指すのは、未来を〝創り出す〞力をもつグローカルリーダーの育成。当たり前を疑い、周囲を巻き込み課題解決にあたるリーダーになってほしい」(太田稔先生※以下同) 主体性を発揮して課題探究に取り組めるよう、最も重視しているのは、生徒一人ひとりの「これをやりたい」という内発的動機だ。4回生(高校1年)前半にグループでひととおりの探究プロセスを経験したあとは、自分が本当に「やりたい」と思うテーマを自由に設定し、個人探究に取り組む。各自のペースで、設定した仮説をフィールドワーク(以下FW)で検証するという探究プロセスを繰り返す。「失敗してもまた挑戦すればいいし、期限内に完結させなくてもいい。立派な成果物を仕上げることより、探究を深めることに存分に力を注いでほしい」 目指す探究は、〇〇がわかっただけの〝調べ学習〞や、解決策の提案までの〝他人ごと探究〞を超え、課題解決のための行動を自ら起こす〝自分ごと探究〞だ。「出来上がっている企画に参加するだけでは、面白みが薄く、自分ごととして取り組みにくい。企画段階から参加する、さらには、生徒自身が主導する企画に大人を巻き込むぐらいのアクションを期待しています」 同校の課題探究には、学校内外の多様な他者との対話の機会が活かされている。教員との関わりも、その重要な機会だ。教員は、生徒の主体的な探究を側面から支援する〝伴走者〞。生徒が探究内容の報告に来たら、まずは傾聴し、「へー」「ふーん」「すごいね!」など、太田先生いわく〝便利な呪文〞を繰り返す。相談の場合も、まず生徒の考えを聞くことから始め、教員が正解を与えることは極力控える。「生徒は話すことで自ら思考を整理していく。さらに、教員が時折『で、どうしたいの?』『なぜ?』などの問いかけを挟むと、生徒は自ら問題点に気づき、次の一歩を見つける。教員が特に助言をしなくても、たいてい生徒は満足顔で帰っていきます」 また、地域の大人たちとも対話的な関わり方ができるよう、まずは大人との心理的な壁を取り払う場づくりをする。初めてのFWに先立ち、地域の大人を招いて「校内探究ヒアリング」を開催。少人数に分かれ、生徒が話の主導権を握り、自分たちの探究計画を話題に〝雑談〞する。「こうした知らない大人と話す経験の有無で、FWへの踏み出しやすさや深まりに大きな差が出るようです」 その後、生徒自身のやりたいことに合うFW先を探して直接依頼。何を検証しに行くのかを明確にして話を聞きに行く。「自分が興味関心をもてる相手に、目的を明確にして話をしに行くことで、自然と対話が生まれていると思います」 次第に多彩なFWが展開されるように。「学校づくり」をテーマにした生徒は、多様な地域・校種の教員へのインタビューや、大学生とのディスカッションなどを行った。「森が人に与える良い影響」に取り組んだ生徒は、自然団体と連携して森林体験イベントでの活動を重ね、参加者とオンライントークセッションを行ってその影響度を調査した。 また、外部の方が授業見学や視察のために来校する際も、生徒が多様な大人と対話するチャンス。希望生徒は自分の探究内容を来校者にぶつける。「自分の考えを聞いてもらうことが、自己肯定感につながる。やりたいことを突き進めればいいと、背中を押され自分ごとの探究を通じて多様な大人と語り合い、明日を創る主体性を育む北海道登別明あけび日中等教育学校 (北海道・道立)※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります取材・文/藤崎雅子探究地域で深める課題探究で未来を創るリーダーを育成生徒が主体となり目的をもって対話を重ねる北海道登別明日中等教育学校の「対話」の特徴~地域・教員との対話の繰り返しから主体性を育む~対話自分ごと化興味関心地域教員主体性262021 MAY Vol.437

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