キャリアガイダンスVol.437
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 広島県にある安田女子中学高校は、2020年度に、経済産業省「未来の教室」実証事業としてルールメイキングという外部連携プロジェクト(※右下の注釈参照)を実施、生徒主体で多様な関係者と対話を重ね、校則を見直した。 その取組の背景には、当事者意識を育むというねらいがあったという。「『学校という箱の中に自分がいる』のではなく『学校は自分たちでつくるもの』と生徒が思えるようになってほしい、と考えていました。この学校の一員として自分の思いを発信し、多様な意見にもふれてその違いを乗り越えていく、そんな強さを身につけてほしいなと」(安田馨先生)「本校は100年以上続く伝統校で、校則や生活ルールが多く、生徒は厳しいと感じがちでした。ただ、優しくて根が真面目な生徒が多く、あまり主張しないんですね。もっと自分の思いを外に発信できるようになってほしい。校則という身近なテーマを、外部も含めたさまざまな人と対話して生徒が見直す活動を通し、『自分がどうしたいかを学校で出していいんだよ』と背中を押したいと思っていました」(上所奈美先生) プロジェクトを進めるにあたり、同校ではまず全教員でワークショップを行った。校則は生徒の安全や安心を守るものでもある。先生たちのなかでは、生徒主体の見直しに期待感をもちつつ、「安全や安心を保てるか」と不安視する声もあった。だから今の校則をどう思うか、先生同士でも語り合ったのだ。互いの認識がわかり、生徒を見守る際の「目線合わせができた」(安田先生)という。 そのうえで全校生徒に「皆さんと学校、関係者で対話しながら、みんなが幸せになるルールを一緒に作りたい」というルールメイキングチャレンジ宣言をした。校則見直しに参加する生徒を募るアナウンスであり、同時に「校則は誰のために何のためにあるか」を問う仕掛けでもあった。 活動は、生徒会の生徒をはじめ、「やりたい」と自ら手をあげた中学1年生から高校2年生までの有志メンバー約20名が軸になって進めた。6月から毎週水曜日の放課後にミーティングを行い、少人数グループに分かれた対話をベースに、校則の見直しを検討した(写真上段も参照)。 上所先生や安田先生は見守ることに徹したという。11月下旬に予定されていた学校への提案を見据えて「いつまでにここまでは進みたいね」という促しは適宜行ったが、どの校則をどう見直すかは生徒たちにゆだねた。「集まった生徒は年齢差もあり、全員がほぼ初対面。意見を言えない生徒が出たり、意見が割れて膠着したりしないか心配でしたが、自分たちでうまく話を進めてくれました。その空気ができたのは、初期のワークショップで外部の方が生徒の意見を傾聴してくれたからだと思います。どんな意見も肯定的に捉えてくださり、生徒も楽しそうで。自分の意見があるときも、対話では相手をまず理解しようとすることが大事なんだと最初に教えてもらえました」(上所先生)「ワークショップデザイナーの方の言葉も印象的でした。『議論が相手と意見を投げ合うキャッチボールなら、対話は全員が自分の意見をテーブルにポンと置き、ここは同じで、ここは違うね、ならこう考えたらどうだろうと話を広げるもの』と説明してくれたのです。生徒たちは付箋や模造紙を使って、まさにそのように対話をしていきました」(安田先生) その対話のなかで生徒たちは自ら気づきを得ていったという。「私がこの校則について思っていることは、みんなもだいたい同じはず」と思っていたのに「意外と違うんだ」と。 だから、自分とは感覚の違うメンバーの意見に一層耳を傾けた。また、みんなが幸せになるルールにするには、「一つの校則の見直しを通した対話で当事者意識を育み校則以上に大切なことも発見安田女子中学高校 (広島・私立)※「ルールメイキング」生徒主体で校則を見直し、課題発見や合意形成、意思決定の力を育むことをNPO法人カタリバが支援するプロジェクト。取材・文/松井大助生徒が思いを主張し学校づくりの当事者になる意見の投げ合いではなく全員の意見をテーブルに安田女子中高の「対話」の特徴~目的に向けた対話を通して新たな目的を見出す~本質新たな目的対話気づき目的場づくり特別活動※先生・生徒の所属・学年などは取材当時のものになります282021 MAY Vol.437

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