キャリアガイダンスVol.437
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412021 MAY Vol.437誌上 進路指導ケーススタディ 生徒が上手に 自己表現できるには?今回取り上げるのは「アサーション」です。一般には、対人コミュニケーション能力を向上し人間関係を円滑にするためのアサーション・トレーニングなどで知られていますが、進路相談のなかでも、その考え方やスキルを意識することで、生徒の上手な自己表現につなげられるのではないかと考えました。取材・文/清水由佳 イラスト/おおさわゆう(※)交流分析におけるライフポジション/人間が人生において、自分自身と他人についてどのように感じ、どんな結論を下しているかを示すもの。うまくいく自己表現うまくいかない自己表現こんなケース1親の言いなりで振り回されている生徒2就職面接で態度が悪く落とされる生徒3何をしたいのかほとんど口にしない生徒第19回かりまざわ・はやと●1986年岩手大学工学部卒業後、岩手県の公立高校教諭に。早稲田大学大学院教育学研究科後期博士課程単位修得退学。教育学、教育カウンセリング心理学を専門とする。2015年4月より現職。会津大学 文化研究センター教授 苅間澤勇人先生 【監修&アドバイス】手を押し込めたりするのではなく、お互いの価値観を尊重しながら対等な関係を築き、自分の意見を的確に言葉にするという考え方です。 アサーションでは、人のコミュニケーションタイプを、「アグレッシブ(攻撃的)」「ノン・アサーティブ(非主張的)」、さわやかな自己主張ともいえる「アサーティブ」の3つに分類します(図)。 例えば、忙しい時期に同僚の先生から急な仕事を頼まれたとき、「こんなときに非常識だ」と一方的に非難するのがアグレッシブタイプ。逆に、何も言えずに我慢して引き受けてしまい後悔するのがノン・アサーティブタイプ。「今、仕事を頼まれましたが、自分も急ぎの仕事を抱えていて、対応が難しい。いついつまで待ってもらえるのなら大丈夫だが、それが難しければ、かえって迷惑をかけてしまうので今回はお断りするしかない」と丁寧に説明し断れるのがアサーティブタイプです。 そして、アサーティブな言動を取るための態度や表現を、「言語的アサーション」と「非言語的アサーション」の両面から向上させることを目指します。 特に、問題解決の場面やうまく言えそうもないことを言おうとする際などに、話すためのステップとして、「DESC法」があります。●Describe(描写)客観的に事実を伝える。●Explain(説明)自分の意見や感情 アサーションの考え方と技法は、対人関係に悩んでいる人や自己表現が下手で社会的な活動を苦手とする人のための「行動療法」の一つとして、1950年代にアメリカで開発されました。近年は、企業における人材育成やさまざまなビジネスシーンでのコミュニケーション向上など、対人関係が重要になる場で広く活用されています。一貫しているのは、相手の主張を否定したり、強い口調で無理に相を伝える。●Specify(提案)相手に望む行動や解決策など小さな行動の変容についての提案を明確にする。●Choose(選択)提案の実行・不実行による結果を伝えるなどして選択肢を示す。 前述したアサーティブタイプのセリフは、まさにこの4つのステップで整理して話をしているのがわかります。 さらに、コミュニケーションの大半は言語以外の表情や態度、声のトーン、身振り手振りなど「非言語コミュニケーション」によって伝わるともいわれています。そのため、「笑顔で楽しい話をしている」など、言語と非言語で伝えている情報が一致していることも大切です。 これらの態度や話の整理の仕方は、進路指導や相談を行う際の教員の態度・スキルとしても重要なものとなります。教師自身がアサーティブな関わりを行うことによって、生徒のアサーティブな言動を導き出す。そんな関係作りに役立ててみてください。図 コミュニケーションの3つのタイプと特徴進路指導に役立つ技法●アサーション技法を活かすアサーティブ率直、積極的、自他尊重、自発的など。「I’m OK, You’re OK」(※)ノン・アサーティブ(非主張的)自己否定的、消極的、依存的、服従的など。「I’m not OK, You’re OK」(※)アグレッシブ(攻撃的)自分本位、尊大、支配的、他者否定的など。「I’m OK, You’re not OK」(※)

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