キャリアガイダンスVol.440
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ープで共有して「じゃない世界」のイメージを深めていき、最後はプレゼン・紙芝居・寸劇のいずれかで表現する。 あるグループは「冷蔵庫の中が冷たい」というあたりまえから出発。初めは家電の技術という一つの観点から離れられない様子だったが、金井先生がテーマ設定の背景を聞いたところ、そもそも食べ物が腐ってしまうことに関心をもっていることに自ら気づいた。そこからは「食べ物が腐らない世界」をテーマに、「食べ物が腐るとはどういうことか?」「発酵食品や保存食とは何か?」といった科学的な問いを深めていった。 また、「人を殺してはいけない」「なぜ死の概念があるのか」「生きるためにはお金がいる」などに関心のあったグループは、議論するうちに「自由に生きるためにはお金が必要ということは、お金がない世界では自由になれないのか?」というテーマに変容。お金があることで縛られる生き方や考え方にも議論が広がった。 本PJは、普段本を読まない生徒にとっては、本を探すことも新鮮な経験となった。そのなかで「同じテーマの本でも著者によって内容がまったく違う。読んだ本で自分の価値観も変わるのではないか」と気づいた生徒もいる。同じテーマで本を持ち寄ると幅広い本が集まったことで、「自分だったら見逃してしまうような本と出合えた」と他者の視点を借りて世界を広げることもできた。また、いつもと違う視点で社会を見つめた経験は、他の教科の学びにも影響。ある生徒は、世界史の授業が「じゃない世界PJ」で国の枠組みについて議論したこととつながり、国同士の対立の背景を自分なりに想像し、国際協調の難しさを感じたという。 「こうした授業を通じて、本を〝使う〞ことの可能性を感じてくれた生徒は少なくないと思います。実施したクラスの図書館からの貸し出し冊数が飛躍的に上がったり、数人で自主的なブッククラブを始めたりした例もあります」(金井先生) じゃない世界PJの授業の裏側に目を向けると、実施期間中、プロジェクト科教員は毎週約3時間のミーティングを行っていた。大切にしたのは、「教員自身がワクワク感をもって企画し、〝生徒と共につくる〞という意識」(足立先生)。前の回の生徒の反応を基に、より響く内容へと修正を図りながら進めたという。 対話を多く取り入れるにあたっては、「誰しも自分の内側にあるものを出すことには怖さがある」(足立先生)と、安心安全の場づくりを重視している。同校では、入学当初からさまざまな機会を通じて生徒同士の関係性の構築に取り組んでいる。それに加えて、同PJでは、授業ごとの振り返りを丁寧に行い、そこで出た意見や感想を取り上げてクラス全体に紹介するなどして、それぞれに異なる学びを肯定。自分なりの考えを忌憚なく出すことを後押ししているという。 社会をつくる当事者を育む取組は、ここで終わりではない。本を使った学びの次は、フィールドを実社会に拡張し、宮崎と京都に分かれて宿泊研修を行う。各地域でイノベーションを起こしている人にインタビューし、自分たちに何ができるのかを考えてチャレンジする計画だ。 来年度のプロジェクト科については、同じプログラムを繰り返すのではなく、「生徒の様子を見て、どうジャンプさせられるかを見極めながら新たにつくっていきたい」と金井先生。これからも校内外でさまざまな手法を学びながら、目の前の生徒たちがいかに自分の世界を広げていけるか、教員も探究を続けていく。教員がワクワク感をもって企画安心安全の場で実践今まで「本はつまらない」と思ってあまり読んでいなかったのですが、「じゃない世界プロジェクト」でいろんな本に触れてみたら、やっぱり面白かった。私は正解がないことを自由に考えるのが好きなのですが、本は思考を広げてくれるとわかったからです。最近、書店に行く回数が増え、表紙や帯を見てどういう話だろうと想像して楽しんでいます。(1年生・長尾爽さお央さん)思考を広げてくれる本の面白さに気づいた授業後、グループで考えた「じゃない」とは違う、「死ぬのが当たり前じゃなかったら?」という新たな疑問が頭に浮かんできました。小さい頃は死後の世界を想像することがよくあったのですが、もう一度考えてみようと、死に関する新書を読みました。誰も知らないからこそ面白い。以前から小説は好きなのですが、最近は新書も含めて読書の幅が広がってきました。(1年生・村上佳穂さん)新たな問いをもち読む本の幅が拡大本は最初から最後まで読まないと「読んでいる」とは言えない、と思っていましたが、いろんな読み方をしていいと教えてもらい、本によって読み方を変えるようになりました。月2~3冊読みますが、表現に注目して読んだり、一つの章を読んだあとに次を想像してから読んだりしています。いろんな読み方をすることで得るものが増えたように思います。(2年生・トレンティノ J.ラファエルさん)いろんな本の読み方を使い分けるようになった探究型読書に取り組んだ生徒たちの声142021 DEC. Vol.440

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