カレッジマネジメント187号
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57ル、合計269百万ドル(時価327百万ドル)である。バラツキはあるが、成功例も少なくない。実施時期の後半は、「ニュー・エコノミー」の時代である。それが幸いしたといえよう。この二つの対応策は、基本財産をめぐる問題解決に一定の示唆を与えていると思われる。わが国大学の運用資産3わが国においては、寄付の文化が稀薄である。寄付税制を改正しただけでは、大した効果は期待できない。この点が日本とアメリカの最大の相違点である。さて、ここでの論点は、寄付による運用資産蓄積の可能性、資産運用の問題、この2点である。まず、私立大学について、運用資産の状況を確認しておこう。もちろん、統計によって正確に把握することはできない。それでも、近似的な数値はとらえうる。表3は、日本私立学校振興・共済事業団の統計調査によって4年制大学の設置法人の運用可能資産について見たものである。この表で運用可能資産とは、貸借対照表において、その他の固定資産のうち、有価証券、退職給与引当特定預金、施設設備引当特定預金、減価償却引当特定預金、その他引当特定預金、第3号基本金引当資産、流動資産のうち、現金預金、有価証券、以上を合計したものである。こうした運用可能資産の総額は、大学数の増加もあって、年とともに増加し、2011年には9兆円を超えている。2000年には7兆4千億円余であったから、大きな伸びを示していることがわかる。だが、1大学当たりの金額では170億前後で推移しており、ほとんど変化がない。しかも、このところ積立不足額が年々拡大している。また、週刊東洋経済「大学四季報」によって2012年度の資金力を見ると、1000億円を超える学校法人は帝京、日本、北里、創価、立命館、慶應義塾、明海の7法人に過ぎない。第1位の帝京は3173億円と群を抜いている。それでも、ハーバードのほぼ10分の1の水準に過ぎない。わが国の特徴は小規模・分散であるといえよう。ただ、慶應義塾のように卒業生を組織化し、寄付を積み上げて資金力の強化につなげているのは、注目に値する。このところ、わが国の大規模大学には、志願者の水増しで「良き風評づくり」を行うという傾向が目立ち、教育の質的向上を重視しているとは思えない。ミッションと教育目的を明確にし、それに惹きつけられた学生を確保し、学力をつけて社会に送り出すことを重視すべきであろう。在学時の満足度が高ければ、卒業後も学び直しの機会が増え、生涯にわたり大学と縁を結ぶことになろう。結果として、強力な卒業生組織が形成され、継続的な寄付金納付が期待できる。こうした事情は国公立大学法人においても同じである。ところで、共同資産の形成と専門人財による運用については、アメリカ以上に大きな可能性が認められる。小規模・分散の資金を集め、専門機関が運用する。すでに一般社団法人大学資産共同運用機構が設立されており、アメリカのコモンファンドと提携している。さしあたりは、各学校法人の運用体制についてのコンサルティング等から始め、いずれは共同資産の形成・運用に至ることになろう。最後に、運用資産の補強を目的とする政策は、新しい大学助成の方法として検討に値しよう。低金利経済という状況を脱すれば、政策化の可能性が広がることになる。いずれにしても、研究資金の確保のために、大学法人の財政基盤の強化が必要になる。運用資産の形成と運用について、大学人はより一層の理解を深めるべきであろう。リクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 2014年度金額大学数1大学当たりの金額200074,282435170.8200584,191504167.1201087,400532164.3201191,679541170.0201292,870539172.3表3 学校法人の運用可能資産資料:日本私立学校振興・共済事業団「今日の私学財政」(注)4年制大学を設置している法人金額は単位億円

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