カレッジマネジメント187号
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59方針が全学で共有されていない」が7割を超え、「企画調査能力をさらに強化する必要がある」が9割近くに達している点などは留意しておく必要がある。組織は共通目的を実現する装置であり、その構成員はそれぞれに異なる能力、価値観、動機、パーソナリティーなどを有している。組織が掲げる目標とその構成員である個々人の目標をどう調和させるかに人事管理の本質がある。その点に重大な問題を抱えていることを本調査結果から読み取ることができる。仕事にやりがいを感じ、自身の能力をさらに向上させ、経営や教育研究の高度化に貢献したいと考える職員は多く、学ぶ気持ちさえあれば学内外に様々な学習機会も用意されている。その一方で、大学や上司は自分に何を期待し、どうすれば評価され、どのようなキャリアを歩むことになるのか、職員の側から見て不透明な面も少なくない。大学自体が大きな変革期にあることがその背景にある。国立大学は法人化から10年を経過し、部課長以上は異動官職、課長補佐以下は生え抜きという人事慣行が崩れつつあるものの、人事管理の発想を転換し、新たな枠組みを構築するまでには至っていない。公立大学も8割が法人化し、設置自治体からの派遣職員がプロパー職員に置き換わりつつあるが、キャリアモデルが明確に示されているとは言い難い。私立大学についても、法人化のような体制変革こそないが、理事会、教員、職員の間で、あるいは世代間で、職員が担うべき役割、求められる能力、育成のあり方などに関する認識のギャップが生じ、それが前述の調査結果に繋がっているものと考えられる。この点は、国公立大学にもあてはまる面がある。職員に期待する一方で、積極的な行動や新たな試みを出過ぎたこととして抑えるような体質も残っているように思われる。職員が担う機能の明確化と期待する職員像の明確化これらの問題を解消するためには、次の2つの事柄を明確化し、立場や世代間で認識の齟齬が生じないように、大学全体で徹底し共有化する必要がある。その一つは、職員が担う機能の明確化である。決定権限は事柄の性格と重要性により定められるが、職員組織の責任で起案または実施するもの、教員と職員が恊働して起案または実施するもの、教員の業務を支援するもの、という3つのカテゴリーで業務全体を再整理する必要がある。特に、教学事項の多くは教員が合議で決し、職員はその支援や決定事項の処理に従事するという、上下ともいえる関係が続いてきたが、教員と職員がそれぞれの機能と能力を発揮し、恊働して企画し実施する方が効果的な業務は少なくない。また、支援業務も、専門性を活かした機能的な支援と、教員の指示に従う事務支援の2つが考えられる。業務の性格と職員の役割を明確化することで、当事者意識を持って能動的に判断し行動する職員が育つ環境も整う。もう一つは、大学が期待する職員像の明確化である。どのような大学でありたいのかを明示したものが大学の基本理念だとすると、そのために職員にはこうあってほしいと思う大学としての意思表明が期待する職員像である。育成や評価の大本となる人事管理の憲法ともいえるものである。単なる作文に終わらせることなく、全構成員が常にそこに立ち返るよう、徹底し定着させなければならない。経営の要請と個人の期待を如何に調和させるかそのうえで、職員の人事管理を制度と運用の両面から点検し、改善・充実を進めるとともに、必要ならば抜本的な再構築を目指すべきであろう。移行期の措置や職員・組合の理解など配慮すべき点は多いが、競争力の源泉である職員の人事管理を、業務の高度化、個人のキャリア形成、経営の効率化という3つの視点から捉え直すことの意味は極めて大きい。検討にあたっては、採用・退職等の雇用管理、配置・異動・昇進、育成、評価、報酬、福利厚生、労働時間管理など、人事管理全体の枠組みとそれを構成する制度・施策の目的を体系的に理解したうえで、多様な意見を聴取しつつ、自校の規模や状況に即した実効性の高い案を練り上げていくことが重要である。また、部署、職階、年齢、性別などが偏ることなく、前述の東大が行ったアンケート結果で否定意見が多かった2項目に着目すると、人事管理の中でも、配置・異動・昇進、育成、評リクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 2014

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