カレッジマネジメント188号
72/84

76収容定員割れ校の比率は60%を超えている。これらの地域では、対応如何では大学の存続が大きく問われることになろう。もっとも、3大都市圏においても、学生確保競争が次第に激化し、定員割れ大学が増加することになろう。成人教育や留学生の確保がますます重視されるであろうが、3大都市圏をも含めて、全国的に経営破綻に追い込まれる大学設置法人が増加することになろう。以上のような地域構造の変化は、経済のグローバル化のインパクトによるところが大きい。生産機能の国外流出が進み、組立産業や地域産業など全国に分布する工業集積の空洞化が進展した。大手小売業は自ら企画・開発を行った製品を新興国の企業に生産を委託し、製品を輸入する。そうしたビジネス・モデルを採用できない中小小売業は競争力を維持できず、商店街は「シャッター通り」と化す。地方の疲弊は、まさに構造的な要因によるものであった。これに対して、企業の中枢機能や知的資源の集積した東京圏において新しい産業が起こり易く、多くの人財が集まる。また、大都市圏は、グローバルな事業展開の拠点にもなろう。だた、大都市圏においては、超高齢社会に固有の高齢者問題が深刻化する。都市構造の変化のなかで、どのように問題解決をはかるか、これは、大学においても挑戦すべき重要な課題になろう。地域創生と大学の役割3現在は、人口減少社会の本格的展開への転換点である。未知の縮小社会の模索が始まっている。そこで、新しい全体社会の構想が必要となるが、放置すれば一極集中が進むことが予想される。わが国のように、国土の狭い高密度社会においては、不可避であるのかもしれない。それにしても、一極集中は望ましくないとすれば、それに歯止めをかける構想が有力になる。すでに複数の中央官庁が、日本列島をいくつかの「大都市圏域」に分ける構想を発想している。各圏域の中心には、「中枢拠点都市」が存在する。その周辺に、複数のサブ拠点都市が配置される。さらにその下に、数多くのミニ拠点が置かれる。圏域内では、拠点間ネットワークが縦横に展開される。中枢拠点都市には、企業や大学が集積される。知的資源が厚く蓄積され、イノベーションのポテンシャルが大きくなる。イノベーションの推進のためには、知的なクラスターの形成が有効であろう。異質人財の交流、異次元の発想の交錯を通じて、知的摩擦が生じ、知識創造が可能になる。「独創」が展開し、「独創」と「独創」の協力によって「共創」が生ずる。「共創」の結果、新企業がインキュベイトされ、企業家風土の形成によって新産業が創出される。こうした「共創」の推進にあたっては、産学連携が不可欠である。大学発の技術を企業家にトランスファーし、ベンチャー企業をスタートさせる。公的なファンドによる投資とともに、コーチをつけるなど、経営の成長を促進する。地方への企業誘致には限界があるから、大学の研究を強化し、内発的に産業を振興する必要がある。自立的経済圏の構築を目指すのである。サブ拠点は、それぞれ独自な拠点形成を構想する。また、ミニ拠点は、伝統的な特徴を活かした存在となろう。だからといって、空想的な「里山資本主義」が成り立つわけではない。同様に、「コンパクト・シティー」論も見直す必要がある。そもそも、「コンパクト・シティー」論は、人口増加時代における中心都市の空洞化対策として提起されたものである。問題状況の異なる場面で、言葉だけもち込んでも意味が無い。人口が減少したからといって、ただちに都市規模を縮小し、既存の諸機能をコンパクトに集約すればよいというものではない。むしろ、超高齢社会への移行に伴い、新しい都市機能が拡大しつつある。新しい地域福祉社会の構築である。予防を重視し、医療と介護を地域で統合するのである。この分野では、制度的イノベーションによる社会保障費の削減が不可欠である。高齢者の住まい方も変化しよう。人口減少によって空いた土地を「緑の空間」として活用し、災害に備えることも重要である。とにかく、「コンパクト・シティー」論は、あまりにも単純であるといえよう。リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です