カレッジマネジメント188号
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77さて、大都市圏域間のネットワーク、圏域内のサブ拠点やミニ拠点の全国ネットワークも展開しうる。ネットワークは国境をも超える。このような状況になれば、どのようなレベルであれ、地域はそれぞれ独自な構想を用意しなければならない。まさに「地域構想の時代」の到来である。こうした時代には、大学の役割がますます重要になる。時代の変化は新しい状況をもたらす。そうした変化をどう感知するかがきわめて重要である。地方自治体は、住民の「生活の質」の向上のために変化のなかからどのような条件を引き出すか。また、企業は、変化のなかからどのような事業機会を見いだすか。その事業機会を事業化するためにはどのようなアイデアが必要か、具体的に事業をどう構想するか。事業モデルをどう開発するか。まさに、地域の人々の知的構想力が問われるのである。こうした構想力の強化にあたって、経済の現場で磨かれた感知力と、大学に蓄積された知的資源、的確な現場情報などを統合し、主体的に新しい知的能力を創造していくことになろう。こうした構想力の強化の場を提供することは大学の役割の一つである。また、人口減少社会が生み出す新しい問題の解決にあたる多様な専門的人財の育成も大学の重要な役割である。今後、こうした教育課題や教育対象の拡大に、大学は積極的に対応すべきであろう。しかも、大学は、教育を超えて、研究にふみ込むことになろう。こうした行動を避けて、既存の教育・研究に安住していては、大学の存続が問われることになろう。地域イノベーション推進組織4前掲表1から明らかなように、ドイツもすでに人口減少社会に入っている。ドイツでは、旧東ドイツ地域で人口減少が著しい。こうした地域を振興するために、ドイツではフラウンホーファー研究所が大学と産業を「橋渡し」する役割を果たしている。同研究所は、ドイツの連邦政府や州政府からも助成金を受けているヨーロッパ最大の応用研究を行う研究所である。同研究所は、応用研究機関として学界と産業界の「結節点」という位置にある。こうした立場を活用して、数多くの分野や地域におけるイノベーションの推進に貢献している。とりわけ「地域の持続的発展」を目的として、学界を地域振興センターへと結集する役割を戦略的に重視している。フラウンホーファー研究所は、傘下に数多くの分野別、目的別に専門化された研究所を有しており、地域イノベーションを推進する対応力はきわめて大きい。67の研究所が全ドイツの40以上の拠点に位置している。こうした地域における研究活動を概念的に取りまとめると、図1のようになる。フラウンホーファー研究所は、大学・研究機関の基礎研究の成果を応用研究へと伸ばし、企業に協力して開発を進める、まさに結節点にあって、イノベーション推進の中核的存在である。現実に手がけているプロジェクトは、きわめて多岐にわたる。個別の専門的プロジェクトもあれば、多くの大学や地域が参加する先端的クラスターの支援もある。中・東欧地域の地域イノベーションの支援も行っている。さらに、活動の成果をふまえ、地域イノベーションの社会科学的研究を深め、大学や政策当局の役割についての提言をも行っている。こうした機関の存在は、わが国においても必要である。わが国の実情に応じた新しい草の根の仕組みづくりが望まれる。リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014研究機関産業界大 学フラウンホーファー図1 フラウンホーファー研究所の地域振興関係図資料:フラウンホーファー研究所資料

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