カレッジマネジメント189号
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14山形大学のIRは、「EM(エンロールメント・マネジメント)IR」としての特徴を持つ。山形大学のEMは、科学的マーケティング手法による大学マネジメント・サイクルとして位置づけられている。山形大学では入試対策を端緒として、EMの考え方に基づくIRシステムと、実施組織であるEM部を発展させてきた。また2010年度からは、学生に関する入学前から卒業後までの情報を一貫して蓄積・分析するためのITインフラとして「総合的学生情報データ分析システム」の構築も進められてきた。さらに現在では、教育・研究・社会貢献及び財務データ等を統合し、戦略的意思決定のための全学統合型IRを実現することが模索されている。IR戦略の考え方や具体的な取り組み内容、今後の方向性について、小山清人学長、EM部の福島真司教授に話をうかがった。きっかけは入試対策山形大学EM部ではEMを「大学調査などによって支えられ、戦略的なプランニングによって組織され、学生の大学選択、大学入学、在学中の教育サービス、休学・退学の阻止、(卒業後も含めた)学生の将来などに関わる支援諸活動を総合的にマネジメントすること」と定義している。同大学におけるIRは、ここでいう「大学調査」に当たる。このようなIRを含みこむEMの取り組みは、「学生を知り抜く」というコンセプトのもと、個人的な考えや憶測で意思決定するのではなく、データやファクトをベースに学生の「立場になって」考える姿勢によって貫くことを目指している。山形大学が、EMの取り組みを始めたきっかけは入試対策であった。山形県は、人口減少の激しい東北地方の中でも特に人口流出が大きい。「県内高校出身者のうち県内の大学には約18%しか進学しない。毎年約4000人の若者が県外に出ていってしまう。ここに危機感があった」と小山学長は話す。特に2004年以降、4年連続で志願者倍率が下がるなど、入試対策が喫緊の課題とされていた。このような危機感を背景に注目されたのが、当時は国内では普及していなかったEMの考え方であった。「まずは米国のEMに関する分厚い本の勉強会から始まった」と小山学長は話す。勉強会の人数は2〜3名程度で、事務スタッフと当時の総務・財務担当理事が中心であったという。その後、入試対策に関する評議会決定と、情報収集期間を経て、2006年7月にEM室が設置された。発足当初のEM室は、事務スタッフ3名から構成されていた。EM室の設置は、①環境変化への対応が必要である、②そのためにはマーケティングが重要である、③大学マーケティングのためにはEMが必要である、との理由に基づくもので、入試対策の柱に位置づけられていた。またEM室設置と並行して、入試緊急対策本部における議論が続けられた。この議論の結果、2007年3月に答申がまとめられたほか、緊急対策費として約入試対策等に端を発した大学マネジメント戦略リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014C A S E1山形大学

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