カレッジマネジメント189号
17/60

17い卒業生を比較したもので、在学中にどのような成績、あるいは経験を積むことが採用試験の合格につながるのか、視覚的に示した分析であった。この分析結果を学部教員に提示したところ、課題認識を可視化し、共有するものとして、高い評価を受けたという(図表3)。「データを提示することの狙いは、教育現場での議論が活性化すること。無反応では困るが、文句を言われたらかえって助かる。そこからどのような分析が必要なのか、学部とのコミュニケーションが始まる」と福島教授は話す。現在、山形大学では、2013年度から3年間の概算要求事業を受けて、これまで構築してきた学生情報を中心とするシステムに、研究、社会貢献、財務会計システム等のデータを統合した、「全学統合型IRシステム」の構築が進められている。同システムの構築により、学生の成長と事業コストの相関や、学生満足度と設備投資の相関など、より戦略的意思決定に資する分析が可能となる。今後、このような幅広いデータを、いかに運用していくかが、IRの中心的な課題である。また、現在の山形大学のEMIRは多くが外部資金によって運用されている。いずれ、外部資金がなくなったとしても、事業を継続していける体制を整えることもまた今後の課題である。困っていることから取り組むこれからIRに取り組もうとしている大学に対し、山形大学の経験を踏まえたうえでのコメントをうかがった。まず、小さな成功例をつくることが大事であると、小山学長は話す。山形大学の場合、EMIRが定着する基盤となったのは入試対策であった。また具体的な課題のもとに、定着を目指すことも重要であるという。「今まさに困っていること、問題があるところに、わかりやすいデータを示す必要がある。逆に退学率など、直近の大きな問題ではないデータを提示しても、山形大学では議論を起こすことは難しい」(福島教授)。大学が抱える問題、それに対して課題の共有と議論の契機となるデータは様々である。そういった意味でもIRの取り組みは、各大学に即した手法を試行錯誤の中で見つけていくことが重要であると言えるだろう。それでは、各大学に即したIRを支える人材とは、どのような能力を身につけた人々だろうか。「この仕事は巻き込む仕事。統計やシステムについて一定レベルの専門知識や技術は必要だが、実際に教学や業務の改善を担うのは現場の教職員である。現場の教職員が関心を持ち、議論のきっかけとなるようなデータを、わかりやすく提示しなければならない」と福島教授は話す。また、そのためのセンスを磨くうえでも、コミュニケーションと信頼関係の構築が欠かせないという。「高校との会議に学部の先生と一緒に行って、厳しい要求に一緒に対応することで、仲間意識が芽生える」(福島教授)こともあったそうだ。加えて、IR人材の裁量を支えるマネジメント体制が肝要である。小山学長はIR人材と経営層との関係について「経営に近いというより、お互いが将来のビジョンを共有したうえで、IR人材が好き勝手に動ける環境を経営側でつくってやるというのが良い」と話す。山形大学のEMIRの取材を通じて、特に強く印象に残ったのが、EMというコンセプトへのこだわりと、IRを進めるうえで信頼とわかりやすさを重視する姿勢であった。数量的な分析がクローズアップされやすいIRではあるが、実際の大学の教学や経営戦略の活性化に資するためには、経営層・実践家との課題の共有、あるいは苦労の共有が重要な意味を持つ。EMも、IRも、国内に普及する以前から先駆的に取り組んできた山形大学の事例は、これからIRの定着に取り組む大学にとっても、含蓄に富むものであるように思われる。リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014(丸山和昭 福島大学総合教育研究センター 准教授)IR特集 戦略的意思決定を支える図表3 EMIRによる分析事例(採用試験合否要因ツリー分析)3年(前期)取得単位数人数:***名合格:*名(カテゴリ内:*%)人数:**名合格:**名(カテゴリ内:**%)3年(前期)GPA人数:**名合格:*名(*%)人数:**名合格:*名(**%)人数:**名合格:**名(カテゴリ内:**%)就職ガイダンス人数:**名合格:*名(**%)人数:**名合格:*名(**%)不参加参加**以上**未満かつ**以上**未満**未満**以上全学生:***名合格:**名(**%)※ *は具体的数値を伏せています。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です