カレッジマネジメント189号
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41隣同士の相談を促し、数分のちに再びクリッカーで解答させる。学生がお互いに相談することで共通理解が図られ、これで解答が収束することが望ましいが、それでも解答が割れる場合は少しヒントを与えてもう少し相談を促すか、教員が説明をする。この授業は物理学科の学生ではなく、医学部進学予定の学生を対象に行われていた。いわば数理的な理解が苦手な学生達である。それでもバークレーの学生達であるから、従来通りの数式や物理法則に基づく説明をしていても、学期末試験で出題されるような演習問題は解けるようになるという。しかし、そうした物理の演習問題は解けても、それが現実の世界でどのようになるのかの理解には至っていないことが多いと、この授業を工夫している教員は言う。たとえば、図表1の問題において電球BはスイッチCによってショートされると「消える」はずであるが、そのように解答できる学生はほとんどいない(スイッチCを含む導線も、電球Bを含む導線も、回路としてはつながっているが、導線Cは電気抵抗がほぼゼロのため、電流は電気抵抗のある電球Bではなく、導線Cの方を通る)。物理の演習問題が解けても、現実の世界にこれを当てはめられないのでは意味がない。社会に出てしまえば、数式を用いてまでは現実の物理現象を理解しようとはしないものだ。例えば電子レンジは電磁波を用いて加熱をするため、金属のボールでは電磁波が反射してしまい、中のものが温まらないということは数式なしで理解できていなくてはいけないし、こうした日常生活以外にも医学部の学生であれば、最近は医工連携など、機械や工学的な理解ができないといけない時代になってきている。アメリカでは物理系の教員から、こうした物理の直感的理解を促す教育を模索する動きがそこここに出てきている。本誌7-8月号のWEB限定記事「ハーバード大学物理学の反転授業」で紹介したエリック・マズール教授も熱心にこうした方法を模索、理論化し、ホワイトハウスなどでもこうした教育を働きかけている。前述の、クリッカーと学生同士の相談で授業を進める「ピア・インストラクション」の方法も考案し、本を執筆している。連邦政府や州政府の行政官に文系出身者が多く、数理的合理性に欠ける政策がたびたび打ち出されていることに危機を感じたためとも言われている。さて、バークレーの物理の授業に話を戻すと、この教員は50分の授業を、こうした直感的理解に基づいて解答する問題を5〜6問解くことに使う。従来通りの物理の説明は、自作のオンライン教育モジュールに委ねる。また数式を用いる演習問題を解かせないわけではなく、これは宿題として範囲を指定し、学期末の試験ではこうした演習問題を出題する。つまりこの反転授業は、「講義」と「演習」問題を解くという宿題を反転するといった単純なものではなく、「物理の直感的理解」を醸成する授業時間を稼ぎ出すための工夫なのである(図表2)。 プログラミングの大人数講義の負荷を軽減する同じくカリフォルニア大学バークレー校。バークレーは州立大学であるため、ライバルの他のエリート私立大学に比べて圧倒的に学部教育負担が重い。アメリカの州リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014■問題:スイッチCを閉じると、電球Bの光はどうなるか a) 更に明るくなる c) 弱くなる b) 変わらない d) 消える 電球A 電球B スイッチC 図表1 物理の概念を問う問題(例) 図表2 付加的な教育内容を捻出するための反転授業(模式図)従来反転授業予習―講義ビデオ授業講義付加的教育(物理の概念理解深化等)復習演習問題演習問題能力強化してくれるのはいいけど、全教科やられたら時間が足りない!

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