カレッジマネジメント189号
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44このアイデアはKAISTのナンピョー・スー前学長により2011年に発案された。長年MITで活躍してきたスー学長は任期の第一期において、テニュア制や業績主義の導入、英語による講義への全面移行、外国人教員の雇用や留学生受入の拡大などの大学のグローバル化を積極的に推進し、大きな成功を収め、第二期においては教育の改善を強く求めた。曰く、「一方通行の講義」は不要であり、ディスカッションやグループ学習、実験、PBLなどに全面的に移行しなくてはいけないという。教員側からは当然、猛反発があった。「講義が不要というのは、自分の存在を否定されたようなものだ」「講義をなくしたら、学生の基礎力がなくなる」「教育方法の強要は、学問の自由を奪うのと同じだ」等々。当時このイニシアティブ検討委員会の座長で副学長級の立場であったテエオグ・リー教授は当時の学内の学部と本部の対立を振り返り、苦笑いする。このイニシアティブだけではなく、学長主導のほかの施策にも原因があったようであるが、当時は政治的な問題にまで発展したそうだ。しかし、このEducation 3.0構想については根気強く説明を重ね、またこうした教育方法の効果に関する認知科学や学習科学などの専門的な裏付けとともに、学習において「講義」が有用と回答したKAIST学生が1割しかいないといったアンケート結果なども示し(図表5)、1〜2年かけてようやく学内の納得を得た。当初Education 3.0の授業を2012年にパイロット的に行ったところ、こうした新しい教育方法に対する学生の満足度や授業評価が高く、その好フィードバックに後押しされて、Education 3.0に取り組む教員が徐々に拡大した。最近ではEducation 3.0の授業を1つ以上受けたことのある学生が、全学生の3分の1である3000名以上に上り、学生からの要望が学内における強いモーメンタムとなっている。実際、生物学や脳システム工学などの専攻では、専攻の戦略としてEducation 3.0に取り組むこととし、教員の7割がこれに参加している。現在では、KAISTのEducation 3.0構想は韓国における教育の先進例として広く知られることになり、テエオグ・リー教授(現・KAIST Center of Excellence in Learning and Teachingセンター長)は全国に講演に呼ばれている。リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014図表5 「学習において最も役に立ったこと」に関するアンケート調査結果 図表6 KAISTにおいてEducation 3.0に移行予定の科目数 演習問題 2012 2013 2014 2015 2016 2017 教科書 グループ学習 講義 ← 学生の1割のみ 韓国語の教科書 チュータリング 朗読 その他 0 10 20 30 40 50 60 70 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 (人) (年)2017年目標 ・全科目の3割(800科目) ・60名以上の教室で実施される授業のほぼ全て 〈対象:基礎の必須科目履修するKAIST学生(2012.12.9調査)〉 セマン ティック 一方通行の 情報提示 (ホームページ等) 双方向の 情報交換 (SNS等) 有意味 パーソナルな ウェブ (Big Data等) Web 1.0 プッシュ型 Web 2.0 共有型 Web 3.0 パーソナル型 1000万人    1億人       10億人 1995 2000 2005 2010 (年)図表4 ウェブの進化 Web 1.0→Web 2.0→Web 3.0 (出典) Gary Hayes (2006) "Beyond Web 2.0" [ 注 ] Web 3.0については、色々な案が提案されており、概念は十分には確定していない。

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