カレッジマネジメント189号
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52上昇させ、地元での就職を可能にする。若者の流出を抑制し、地方回帰につながる。このように、地方創生は、大学にとっても大きなメリットがある。ただ、新産業創出は容易ではないし、一定の時間を要する。しかも、どのような産業を起こすかが問題になる。そのための戦略が不可欠であり、策定には大学の専門家が寄与できるはずである。さて、産業は、国際通用性を必要とする産業とローカルな産業に大別できる。前者は先端技術を集約した産業であり、後者の典型は農業やヘルスケア・サービス産業である。ここでは、さしあたり前者の検討から始める。別図は、スマイルの表情に類似した価値獲得のスマイリング・カーブである。縦軸は付加価値、横軸はヴァリュー・チェーンである。産業としては、ICT産業を想定している。もともとは台湾のパソコン・メーカーのエイサーの創業者である施氏が発案したモデルであり、欧米の研究者が精緻化したものである。意味するところは、カーブの両端において付加価値が高い。川上の事業構想、事業モデルの開発、研究開発、知財戦略、川下での顧客をサポートするアフターサービス、複雑なシステム提供などにおいて、付加価値が高い。このシステム提供とは、単独の産業を超えて、複数の関連産業をシステム化することを意味する。さらに、その延長上で、より高次の問題解決をはかり、顧客サイドから新しい産業を構想し創出することが可能になる。ヴァリュー・チェーンの最終段階において、まさに知的作業が拡大する。そして、低付加価値の領域は、外部化される。こうした低付加価領域を戦略産業として新興国が挑戦することになる。さて、中枢管理機能に関連する領域は、このカーブの両端に位置する。先進国の企業においては、こうした領域が戦略のうえできわめて重要である。いわば知識基盤社会に対応した中核的領域である。大学が関わり、拠点都市に厚く蓄積されることが望ましい。1970年代から80年代には、わが国産業の主流は、カーブの中央部の生産機能であった。ターゲットが定まっており、規格化された良質の製品を量産し、シェアを拡大すればよかったのである。だが、今や時代は重化学工業段階から知識基盤社会への移行が進んでいる。このスマイリング・カーブ論は、多くの組立産業にあてはまる。その他の多くの産業についても、一定の示唆を与えている。のみならず、知的作業を集約した領域が企業から外部化され、知的サービス業が多様に広がっている。こうした産業は、大学とも関連が深化している。ところで、もう一つのタイプのローカル分野においては状況はどうか。やはり、かつての地域産業と異なり、例えば、農業について見ると、一方では事業モデルの開発や研究開発、生産方法の改革、他方でブランディングやマーケティング、さらにはシステム化による高付加価値化を志向する「6次産業化」といった知的作業が重要になる。さらに、今後、ますます重要性を増すローカル産業は、ヘルスケア・サービス産業である。とりわけ、超高齢社会に対応して、地域レベルで医療と介護をシームレスに統合し、新しい地域社会を構築することがきわめて重要な課題になっている。やはり地域住民の視点に立った地域福祉社会の構想、ヘルスケア・サービスを統合する事業体の経営、関連する医療・介護・看護施設等の管理、参加事業体のICT化、等々の知的作業が不可欠である。介護現場の改善による高付加価値化も実現しなければならない。リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014構想・企画 事業モデル開発 研究開発 付加価値 材料 ヴァリュー・チェーン 部品 組立 最終製品 運営 システム提供 課題解決 マーケティング ロジスティックス アフターサービス ソフト開発 図 価値獲得のスマイリング・カーブ 70~80年代

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