カレッジマネジメント190号
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63このようにベンチャービジネスに対する期待は大きいが、若者の態度は二通りに分かれるようだ。一つは、自立意識が強く、自己責任を行動規範とするタイプである。いま一つは、安定志向が強く、集団的な意志決定になじむタイプである。前者がベンチャービジネスに挑戦することになる。ただ、社会的には、一度つまずいても再挑戦を許容するというムードが次第に拡大していると思われる。こうした状況は、ベンチャーの創業に有利に作用している。いずれにしても、ベンチャービジネスは増加傾向にあると見てよい。それでは、ベンチャービジネス一般と大学発ベンチャーとの間に傾向的な違いはあるのだろうか。わが国の大学発ベンチャー2まず、大学発ベンチャーとは何か、この点を確認しておこう。大学発ベンチャーとは、大学の研究から生み出された技術シーズを教授など大学関係者が企業化したベンチャービジネスをいう。また、大学関係者から企業家が技術移転を受け創業する場合も含まれる。こうした大学発ベンチャーは、1970〜80年代のベンチャー台頭期において、きわめて少なかった。産学連携についての社会の理解が十分ではなかったことの反映でもある。1998年にはTLO(技術移転機関)に関する法律が制定・施行されたが、ただちに大学発ベンチャーの増加につながることはなかった。特許の取得とベンチャーの創業の間にはギャップが存在するのである。次いで、2001年には、経済産業省によって「1000社」計画が提起されている。図1の示すように、大学発ベンチャーは2000年前後から設立が急速に増え、2004〜2005年のピークまでは増加傾向をたどっている。2006年以降は、設立数は急速に減少している。問題は、大学発ベンチャーの経営の質である。かなり格差が大きいと思われる。清算、廃業、倒産、休業等の合計は、2003年以降右肩上りで増加している。わが国の大学関係者には、経営者としての教育・訓練が不足している者が多く、また、経営経験が無い者が多い。経営破綻が少なくないのも当然であるといえよう。2013年に行われた帝国データバンクの調査によれば、過半数が黒字経営であるという。ただ、成長企業は必ずしも多くはないと思われる。株式上場企業も15社程度である。黒字経営といっても、投資家サイドから見れば「リヴィング・デス」(living death)が多く含まれているのかもしれない。それでも最近では、東京大学、京都大学、大阪大学などから、技術的に良質のベンチャーが登場し注目されている。国立大学は法人化によって、収入を増やし自立することが求められる。したがって、産学連携による収入増に努力することになる。タイムズの世界大学ランキング(2014-2015)を見ると、イノベーションの指標である「産業収入」はジョンズ・ホプキンス大学が160、カリフォルニア工科大学が89.1、MITが95.7と上位にある。これに対して、名古屋大学86.3、東リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015資料:文部科学省科学技術政策研究所「大学等発ベンチャー調査2010」2011年5月 (注1)各年の設立数は設立年が不明な9社を除いて集計。また設立後の変化は変化した年が判明している企業に限って集計。 (注2)年度は当該年の4月から翌年3月までとし、設立や変化の年のみ判明の企業は4月以降に設立されたものとして集計。 新規設立数(計2027) 清算・廃業・解散・倒産/休眠/休業(計154) 企業売却/合併/一部事業譲渡(計49) 株式上場(計24) 図1 新規設立数と設立後の変化 1 2 1 1 1 1 4 2 2 2 2 3 2 4 4 7 8 6 7 0 0 50 100 150 200 250 300 5 10 15 20 25 30 35 40 74 90 166 210 252 252 226 195 167 151 95 41 33 19 47 9 14 11 13 15 20 29 34 26 1995 1994年 以前 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 新規設立数 設立後に変化のあった件数

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