カレッジマネジメント191号
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47リクルート カレッジマネジメント191 / Mar. - Apr. 2015学位授与を基礎とした遠隔教育が始まりであるから、その質保証についても過去40年超を通じて培ってきたものがある。遠隔教育では、受講者がドロップアウトしやすいため、そのための対策なども打たれている。例えば英国のオープン・ユニバーシティでは学生20名に対して必ずチューターを1名割り当て、きめ細かい連絡を通じて、学生が脱落しないような配慮を行っている。こうした遠隔教育にノウハウのある大学からすると、MOOCはあまりにも杜撰(ずさん)に見える。「何万人単位で受講するオンライン教育なんて、みんなドロップアウトするのは当たり前ではないか」「オンライン教育をまともにやったことのないエリート大学の考える素人芸」「所謂一方通行の講義を単にオンラインに移行した、インターネットの双方向性等の特性を全く活用しない、古くさい遠隔教育」等といった悪口が随所で聞かれた。このため欧州ではEADTUを母体として、欧州の大学が参加できるMOOCプラットフォームOpenupEdが2013年に設立され、それとともにその質を保証するためのクオリティー・レーベルが2014年に明確にされた。基本的には、参加機関の内部質保証を基礎としているが、図表6に示す8つの基準に留意しなくてはならないとされている。OpenupEdは、どのMOOCプラットフォームを利用するかは大学の自由との方針を採択しているため、全ての大学がOpenupEdのプラットフォームを利用しているわけではないが、現在、12大学が13カ国語で179のMOOCをOpenupEdで開講している。MOOC連載の最後の号はアジアや欧州を中心とする取り組みを紹介した。MOOCと銘打った取り組みでも学内限りであったり、一方でe-ラーニングと称しつつも無償で外部公開されていたりと、MOOCとオンライン教育の境目は曖昧である。米国では高騰する授業料と対比して無償のMOOCがもてはやされたが、欧州では元より授業料が無償、あるいは安価であることもあり、MOOCが無償であることの意味が少ないといった事情もある。いずれにしても、気がついてみたらオンライン教育に類する取り組みが、高等教育においても広く浸透していたことに気づかされる。1990年代初頭にインターネットが普及開始してから何度となく、「これからはe-ラーニングの時代」と騒がれては消えていったが、そのような波が来る度に少しずつ、ノウハウや基盤が整備されていったようだ。MOOC自体はほかの流行り廃りと同じく、いつか廃れていく可能性がないでもないが、一方でMOOCがオンライン教育に果たした役割は絶大である。エリート大学がこれに取り組んだことで、物理的キャンパスを有する大学によるオンライン教育への取り組みが本格化し、これまで日陰の存在であったオンライン教育が、高等教育を提供する有効な手段として日の目をみるようになったのだ。主体的学びを醸成する必要を強調する21世紀の高等教育と相俟って、反転授業やブレンド型学習が着目されたことの効果も大きい。日本については、主体的学びや反転授業には関心が集まっても、MOOCやオンライン教育にはまだ火がそれほどついていないようだ。教員のノウハウや大学の支援体制の欠如もあるが、学生側にそれほどニーズがないということが大きいように感じる。社会人や勤労学生等、大学に来られない学生の層が薄いのだ。一方、現在大学に在籍するが登校しない学生は、学ぶ意欲が低い傾向にあり、オンライン教育で意欲を喚起することは尚更難しい。それでも何らかのかたちでオンライン教育、あるいはLMSの利用にはチャレンジしていきたいものである。世界の大学では既に広く取り組まれつつある。また、昨今ではオンライン教育を通して得られる学習ログ等を分析し、教学IRに活かすといった取り組みも広まっている。教学IRは日本の大学においても、喫緊の課題である。オンライン教育は、初めはぎこちなくても、チャレンジしているうちに、日本の現状にあった使い方も見いだされていくことが期待される。世界の大学に拡がるオンライン教育図表6 OpenupEdのクオリティー・レーベルの基準(出典)OpenupEd label, quality benchmarks for MOOCs(http://www.openuped.eu/images/docs/OpenupEd_quality_label_-_Version1_0.pdf)○学習者へのオープン性○デジタルのオープン性○学習者中心のアプローチ○個別学習○メディアに支援された相互作用○修了証のオプション○質への配慮○多様性の確保

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