カレッジマネジメント192号
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日本経済は今や世界の市場を相手に競争しなければならない段階に達した。一頃まで国の内外から日本の代表企業と目されていた企業が、今では業績不振の苦境に立たされている。時代は確実に変化するとともに、この新しい時代環境の中で、いかなる能力を持った人材を育てるかが、大きな課題として浮上しつつある。受験勉強の弊害を説く声は未だに絶えたことはない。その弊害を取り除くためと称して、これまでの入試の変遷をこまごま調べたところで答えはでてこない。今必要なことは従来型の能力観を一度根底から疑ってかかることである。これからの時代がいかなる能力を求めているか、その能力像を明らかにする課題が我々の前に提起されている。こうした時代変化を背景として、この数年来様々な能力観が提案され、それとともに聞きなれない新語が乱れ飛んだ。ジェネリック・スキル、エンプロイアビリティ、社会人基礎力、学士力、ハイパー・メリトクラシー等々。しかしこれらの能力が具体的に測定できなければ診断もできないし方策も立てられない。企業はこれまでの経験をもとに毎年新入社員の選考を行っているが、せっかく採用しても2、3年でやめる者が増えている。ブランド大学の卒業生だけ狙っていればよいという時代は過ぎ去った。大学は大学で、キャリア教育に力を入れていることをアピールしているが、具体的にどういう能力を重点的に伸ばしたらよいのか、はっきり見えているわけではない。このように万事が曖昧なまま掛け声だけが叫ばれている。そこでこの研究グループでは、具体的に一つのテストを開発し、その妥当性を検証し、これからの社会に必要な能力を測定する方法と、それを育成するプログラムを提案している。まず肝心のPROGという略語の意味だが、これはProgress Report On Generic Skillsの頭文字をつなげたものである。それではここでいうジェネリック・スキルとは何か。この研究グループはこれまで提案されてきた様々な能力観を吟味したうえで、それを「リテラシー」と「コンピテンシー」の二つに分けている。そして「リテラシー」とは「知識を活用して問題解決する力」、「コンピテンシー」とは「経験を積むことで身についた行動特性」と説明されている。ただこのように言葉だけの説明ではなかなか分からない、もっと具体的に知りたいという読者は、具体的な出題例が本書に載せられているので、直接それを参照して頂きたい。そこでは最近のテスト理論を踏まえた、平易な解説が展開されているので、最近のテスト理論の展開を知るうえでも有益であろう。この研究プロジェクトの特色は、こうして開発されたテストを既に累計10万人以上の大学生を対象に試行テストを行っている点である。そして本書には部分的ではあるが、このテストの有効を示す具体的な事例も紹介されている。例えば一例を挙げれば、早期内定獲得者はコンピテンシーの得点が有意に高いといった事実である。具体的にいえば、早期内定獲得者は統率力、自信創出力、行動持続力等で、目立って高い得点を示すという。恐らくこうした作業を蓄積してゆけば、さらにインパクトの高い結果が得られることだろう。ふつう一つのテストを完成するには、多額の経費がかかる。だから国が多額の税金を投じて開発するのがふつうだが、このように民間セクターが自力で経費を調達し、開発を行い、ゆくゆくは資金的にも自立可能なシステムとして完成させることを視野に入れている点に、このプロジェクトのオリジナリティーがある。学校法人河合塾・株式会社リアセック監修、PROG白書プロジェクト 編著『PROG白書 2015』(2015年 学事出版)曖昧な“これからの時代に求められる能力”測定・育成を可能とするプログラム「PROG」

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