カレッジマネジメント192号
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24しかし、現実はそう簡単なものではなかった。教員組織である学系・部門について、どこに所属するかは原則として教員の自由意思を尊重するとされていたが、結果的には、教員組織と教育組織は、1対1対応に近い状況となった。そのため、組織の枠を超えて教員が教育の提供に当たるという当初描いたイメージの実質化は、十分図られているとは言い難い。とはいえ、「教育組織と教員組織の分離があったからこそできたこともある」と辻田副学長は言う。「結果的にそのこと(教員組織と教育組織の分離)が、多様な教員組織づくり、特に総合科学系という組織に新しい部門を創ることを可能にしました。そして、そこが母体になって新しい学部ができたのです」。地域協働教育学部門の立ち上げに携わり、新しい学部の設置にも尽力した辻田副学長は、自らの経験を振り返りながら語る。教育組織と教員組織がほぼ対応する組織にあって、教育組織とは直接的な対応関係にない総合科学系の各部門は、学内でも例外的な存在だ。「特区」ともいうべきこれらの部門は、高知大学において教育・研究のイノベーションを生む場となっている。上述の「地域協働教育学部門」に加え、文部科学省特別経費プロジェクトに採択された「レアメタル戦略グリーンテクノロジー創出への学際的教育研究拠点の形成」(2013年採択)を担う「複合領域科学部門」も「総合科学系」の部門だ。「地域協働学部」の誕生─教員組織を基盤とする新学部創設2015年4月、高知大学に38年ぶりの新学部となる「地域協働学部」が誕生した。初年度ながら志願倍率4.9倍という上々のスタート。これを生み出す素地となったのも、前述の教員組織の一部門として「総合科学系」に置かれた「地域協働教育学部門」である。もちろんこの芽は、一朝一夕に育まれたものではない。「地域協働教育学部門」そして、「地域協働学部」へと繋がる「種」は、法人化直後に蒔かれ、丁寧に育まれてきたものだ。共通教育を通じた日々の実践の積み重ねや、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択された「課題探求能力育成型インターンシップの開発-コラボレーション型インターンシップ(CBI)授業システムの全学導入-」(2004年度)、「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」に採択された「コラボ考房と2つの道場が育む自律型人材」(2007年度)等の文部科学省による各種事業を通じた取り組みはその一例である。学内で分野横断的な形で進められた取り組み。それらを主体となって進めた組織が、教育組織と教員組織の分離を契機として、教員組織の一角を成す「地域協働教育学部門」として形を持つ。そしてそこから、新学部を生み出す。その足跡からは、実践を重ね、実績を積み、大学の強みとなるまでに発展させた、高知大学の戦略性が見て取れる。新たに創設された「地域協働学部」は、地域産業振興を担う「地域協働型産業人材」の育成を掲げる。多分野多領域の学問を包含し、「地域協働」という視点で再編したその教育は、「地域」と「学際性」を明確に志向するものだ。教育プログラムにおいて軸とされているのは、「地域と共に学ぶ」である。「高知から『地域』を考える」という狙いのもと、地域に入り込んで、地域と共に学ぶこと、さらにそれらを通じて、協働する力を育むことを目指している。こうした取り組みはいずれも学部になる以前からも行われてきたものだ。しかし、学生自らがフィールドを開拓し、地域との活動に熱心に取り組んでも、その学生が卒業してしまうとせっかく築き上げた協働の関係性が途切れてしまうこともあったという。「学部組織で対応することで、地域と共に学ぶシステムが継続的なものになる」と脇口学長は期待を寄せる。「特区」からメインストリームへ─地域志向教育の全学的展開高知大学が進める組織改革は、新学部創設にとどまるものではない。現在、医学部を除く全ての学部の改編を射程に、改革が進められている。その方針を定めたものが、『高知大学教育組織改革マスタープラン』であり、さらにその道筋を示したものが『高知大学教育組織改革実行プラン』である(図2参照)。ここで打ち出されているのは、地域協働学部の設置を起点とした、「地域志向型教育」の全学的展開である。2015年度には地域協働学部の新設のほか、教育学部を教員養成に特化する形で改組が実施されている。今後、2016年度には人文学部の人文社会科学部(仮称)への改組、農学部・理学部の再編による海洋資源系の新教育組織を有する農学海洋科学部(仮称)の設置、さらに2017年度には防災工学系の新教育組織を有する理工学部(仮称)の設置等も計画されている。地域における知の拠点として総合化を図るその方向性は、地方の国立大学のリクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015

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