カレッジマネジメント192号
33/66

33だから、多くの大学で電話帳とも揶揄される冊子体のシラバスは、近大では廃止されている。また、休講・補講情報を紙で掲示することも禁止し、学生には近大UNIPAで確認するよう促していると世耕氏は述べる。いずれもが環境保護と業務削減につながっているそうだ。もう一つ注目される取り組みが教科書販売へのネット導入だ。近大は昨年アマゾンジャパンと連携協定を結び、アマゾンのサイト上に「近畿大学教科書ストア」を開設した。近大からアプローチして実現した取り組みだが、アマゾン側にも18歳の顧客層を取り込めるというメリットがあったという。もちろん最も大切なのは、学生にとっての利便性だ。例年、学期初めには学生が教科書を求めて学内の店舗に列をなしていたが、ネット購入可能となったことで学生の手間は軽減された。さらに、アマゾンでは中古書籍も購入可能で、学生にとってのメリットは大きいと世耕氏は語る。このシステムは、今年度から、シラバス・サイトで教科書の国際標準図書番号(ISBN)をクリックするとアマゾンや近大図書館のサイトに直接飛ぶ仕組みとなり、学生の利便性はさらに向上した。さらに、もしシラバスを紙媒体で手に入れたいと思う学生がいれば、アマゾンのプリント・オン・デマンド(POD)のシステムを通して必要な分だけ印刷物として注文購入することも可能だという。現代大学生はネット社会の申し子だ。大学生は幼少期から身近にネットに接し、スマホが生活上の必須アイテムと化している。そんなライフスタイルに適したシステムの整備は学生生活の充実を左右する。ならば、新たなシステムを積極的に導入していこうというのが近大の基本姿勢だ。そこに迷いは見られない。世耕氏は、ネット出願の影響もあって、ICTリテラシーに通じた学生が多くなっているように感じるという。それならば、いま近大がすべきは学生がICTリテラシーをさらに強化できる環境を意図的に整備することだ。大学がICTに関連する細かなスキルを直接教えることはないが、それを使わざるを得ない環境整備を心がけているという。例えば、広報部を中心にSNSで学生とつながるようにしている。今、近大発信のSNSでは、フォロワー数でラインとツイッターがツートップだそうだ。学生に必要な情報をツイートすると、瞬時にリツイートが増えて情報が拡散していくという。今年からは新入生向けに「入学式特別サイト」を立ち上げ、ツイッターでの情報提供も開始した。確かに、情報全てを紙で伝える時代ではもうない。大学側のSNS活用が学生のICTリテラシーに影響を与える時代だ。こうして幅広くネット化を進める意義は、「新たなことに挑戦する本学の姿勢を示すことにある」と世耕氏は強調する。世耕氏の言葉を借りれば、ネット出願は「常に新しいことに挑戦し続けてきた近大の歴史や姿勢を全部まとめて体現したもの」だった。それを支えるのが、「私立大学」という意識の下で独立独歩を貫こうというマインドだと世耕氏は述べる。ネット化推進の背景には、NTT出身の前理事長がネット出願やSNS活用に発破を掛けたこともあるが、そもそもこれだけ変化の激しい時代だ。法人全体がスピード感をもって事に臨まなければ立ち遅れるという意識が強い。電子決裁システムを導入してスマホで決裁が済むようにしたのもそのためだ。今後も、電子化できる仕事は全て電子化して省力化し、職員の時間は企画など知恵を絞ることに使っていきたいと世耕氏は考えている。将来的には、学内にサーバーを置かずにクラウド化する方向性も模索している。そのためにはセキュリティーを高める工夫も必要になるが、リスクを恐れるだけではダメだと世耕氏は歯切れが良い。むしろ、新しいことに挑むことでリスクに対応しようとしている。近大らしく常にチャレンジャーであり続けようとする姿勢が、近大の強みをさらに強固なものにしているように思えてならない。「ネット化」が示す大学の姿勢「ネット化」が示す大学の姿勢リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)ICTの活用による大学経営改革図表3 「近大UNIPA」のスマートフォン画面

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です