カレマネ
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31どのような資質を持った入学者を、どのような方法で選抜するか。それには選抜した学生が学内でどのように成長したのかを、明確に把握するしくみが必要である。それがなければ、学生の質の保証は成り立たない。2015年に新設された高大接続センターは、そのための装置の1つである。もともとの入試部から高大接続センターという新しい名称にしたのは、1つには学院内外のスーパーグローバルハイスクールとの緊密な高大連携の方策を考案することにあるが、それだけでなく、もう少し長期的なプランにもとづく、大学のミッションやスクールモットーに適する学生を、どのような方法を以てすれば選抜することができるか、それを考えることをもう1つの目的に掲げているからである。それとともに、学内の諸データ、特に学生関連のデータの詳細な分析は、計画の進捗状況を把握し、必要に応じて計画を修正し、さらには、今後の計画を立案するうえで欠かせない。IRとして、大学IRコンソーシアムの在学生調査に加えて、現在は他大学と共同してOB/OGの調査を実施しており、その結果にもとづき、関西学院大学の学生にどのようなコンピテンシーが必要か、どのような学習の経路が必要か、さらには、どのようなタイプの学生を選抜すべきか、トータルな分析を行っているという。志願者が減少する時代であるからこそ、大学のミッションや現在の改革の方針に最適な学生を選抜したいというお話は、説得力を持つ。学生が大学を選ぶだけでなく、大学も学生を選ぶ時代になっている。その時、学生から選ばれる大学になるか否かが、生存戦略にとっての決め手になることを教えられた次第である。ガバナンスと学長のリーダーシップさて、これらの綿密な計画は、関西学院大学にとっては取り立てて新しいものではなく、これまでの実績をもとに、それらを「グローバル・アカデミック・ポート」として再編成したプランである。これまでの文部科学省の競争的資金への申請も、大学としてのミッションやそれにもとづく実績を鑑み行っており、大学の構想や計画にそぐわないとし改革を進めるインフラ:高大接続センターとIR改革を進めるインフラ:高大接続センターとIRて敢えて見送ってきた事業もいくつかある。そうした判断こそ、学長のリーダーシップの1つなのであろう。学長のリーダーシップの遂行に関しては、迅速な意思決定を可能にする仕組みとして、2013年度から「たすきがけ」と呼ぶガバナンス改革を断行したことに特色がある。これは、学長が学校法人の副理事長を兼務し、理事長と共に教学や財政等を統合的にマネジメントする体制であり、この体制では、副学長も法人常任理事を兼務し、法人と大学の諸施策の連動を高めている。他方で、実施すると決めた計画が遂行されるためには、学内の全ての教員の賛同や協力がなければ成り立たない。教員の賛同や協力を取り付けることがいかに大変かは、企業組織のトップダウンの意思決定システムが働かない大学という組織であり、それがまた、ある意味、共同体としての叡智を集結する大学という組織の強みでもある。それに対しては、学長自らが、全学説明会等を実施し大学が策定した方針に対する透明性と公開性を高める努力を丁寧に実施しているという。大学における学長のリーダーシップとは、教育・研究の現場をつかさどる教員が納得してこそ貫徹するものであり、それなしには大学はサバイバルできないというのが、村田学長の認識である。こうした大学の方針が今に始まったことでないこと、それが学生運動が盛んな1960年代後半に遡ることであるというお話も興味深くうかがった。学長によれば、関西学院大学では学生運動がすさまじく、廃校寸前に陥った危機があったという。そこからの回復のために、毎週土曜日を利用して学生と教員との対話集会が開催され、学生の教育に力を入れるための諸々の改革はそれを契機としたという。そうした中で培ってきた教員と学生間や学部間の垣根の低さは、ある種伝統になっているそうだ。「構想が10年というスパンでは長期に過ぎ、中期計画は3年から5年で見直すという迅速な対応が必要であり、他方で、学内への浸透度を高めるためにはじっくりと繰り返し説明することが必要なのです」という、一見矛盾するような要請をいかに舵取りしていくか、現在の日本の大学の学長にはこうした困難を乗り切る力が求められている。リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015(吉田 文 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)特集 2025年の大学

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