カレマネ
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37るAdministration Sta Trainingの略)を立ち上げ、カリフォルニア州立大学イーストベイ校(CSUEB)へ職員を長期派遣して次世代リーダーの育成を推進してきた。FASTは、主に米国大学における上級管理職による講義、参加者によるプレゼンテーション、カウンターパート職員に対するシャドウイング(当該職員に寄り添って仕事の内容・仕方を観察)から構成される「密度の濃い研修」だ。このように、福工大は、1990年代以降の厳しい「大学冬の時代」、さらに近く到来する「18歳人口再減少期」を果敢に乗り越えようと、計画の実質化と自らの経営力の向上に多大な努力を払ってきた大学だ。本誌が福工大に注目する理由はここにある。危機意識を背景に10年かけて変化といっても、民間出身者の獲得やMP・APの策定・遂行が、福工大の経営をすぐさま劇的に改善させたわけではない。組織が一夜にして変わるわけではない。大谷常務理事自身、民間から大学に身を転じた一人だが、当時は民間と大学の組織風土や価値観の違いを強く感じざるを得なかったと振り返る。福工大には、20億円ほどの収支黒字が出せていたときも確かにあった。しかし今から約20年前にはすでにそんな時代は過ぎ去っていた。福工大の志願者動向は全国平均より悪化しており、執行部は危機意識を抱くようになっていた。大学であっても経営体として志を一つにし、組織力で戦っていくこと、教職員の合意形成を図って進むべきベクトルを合わせていくことが必要だったと大谷常務理事は語る。福工大が経営の理念や目標を明確化した背景には、そんな危機意識が存在した。福工大が掲げる経営理念は「For all the students(すべての学生生徒のために)」、それを支える行動規範は「Just Do It!(学生生徒のために即実行)」だ。そこには、当時の福工大に不足していた姿勢、つまり「大学は誰のため、何のためにあるのか」という本質的な問いに対する答えが明確に示されている。こうした理念を提示するだけでなく、関係者の意識改革を図るため、根気強く地道な取り組みも推進された。1990年代後半、鵜木洋二理事長は毎週月曜日、行動規範と同じ「Just Do It!」と題した学内通信を発行していたという。部課長ミーティングで話したものを文章化して毎週学内に配布した。その数なんと10年近くで500号に上る。例えば、1999年のある号は「反“For all the students”四態」として、次の4つの問いを投げかけている。・役に立つパンフレットなのですか?・利用しやすいスペースといえますか?・誰のための“稟議書”なのですか?・学生、生徒さんを輝かせていますか?全てが、学生目線に立った行動を求める問いだ。理事長はこうして、一つずつ丁寧にメッセージを伝え続けた。組織の文化・風土を変えるには小さな取り組みを積み上げていくことが必要で、それがいかに根気のいることか、思い知らされる事例だ。他方、「経営」理念や「経営」目標という表現が象徴的に示すように、それまでの大学にはない企業的な文化や手法を大学に持ち込むことは、学内に文化的なコンフリクトも生じさせたそうだ。山下事務局長も、当初はまだ「(学生を)大学に入れてあげる」という意識が優っていたと語る。そんな感覚を少しずつ変え、ホスピタリティを高めていくよう努めた。それでも、学生目線のスピード感ある改革が実を結び、実際の変化として見え始めるには10年かかったと大谷常務理事は振り返る。改革期から成長期、そして変革期へ確かに、変化が見え始めるまでの「10年」は、志願者数の推移にも表れている。第1次MPから第3次MPに至る「改革期」、大学への志願者数は減少しているのだ(図表1)。「今から見れば、まだまだ対策に未熟なところがあった」と大谷常務理事は語る。それが、第4次MP以降、志願者数は右肩上がりの増加に転じる。なるほど、「成長期」という形容にふさわしい伸び方だ。これには、2005年から2006年にかけて全学あげて、マーケット分析を含む募集戦略の見直しを行ったことが奏功したという。高校訪問を見直し、オープンキャンパスを変えた。新しい講義棟も建て学習環境を改善していった。そうするとキャンパス内の雰囲気が変わり、学生も教員も元気になったという。挨拶が増え、キャンパスもきれリクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015特集 2025年の大学

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